2024.02.05 08:00
【東京一極集中】政府は是正の方向性示せ
一方で本県のような地方は軒並み「転出超過」となり、身近な生活基盤の維持に懸念が膨らむ。地方が持続可能な地域社会の在り方を探るのは当然だが、それだけでは限界もある。どういう国家像を描くのか。政府には是正への具体的な道筋を語る責任がある。
予想されたとはいえ、東京など都市部の「吸引力」は依然として強力だ。コロナ禍で東京の過密さが意識された地方回帰の流れも、経済活動の正常化に伴ってかき消された格好だ。
20、21年と減少した東京都の転入超過はコロナ前の水準に戻りつつある。集計によると、転入超過は埼玉、千葉、神奈川を加えた東京圏と大阪、滋賀、福岡の7都府県だけだった。ほかの40道府県は転出超過だった。
厚生労働省の国立社会保障・人口問題研究所が昨年末に公表した地域別の人口推計でも、本県は50年時点で20年比34・8%減となる45万1千人に落ち込む見通しだった。このうち15市町村では減少率が50%以上にもなる。
人口減少には出生数などの自然要因と社会的要因が絡む。移動の実態から人口流出の再加速が裏付けられただけに、地方にとって衝撃は大きい。県内では既に医療や交通、教育といった生活基盤が弱まっている。推計通りに人口減少が進めば税収やマンパワーの確保が難しくなり、地域社会が立ち行かなくなりかねない。本県のみならず、地方に共通する重い課題である。
本県では人口減少対策を網羅する「元気な未来創造戦略」を策定し、24年度から実践に入る。若者のニーズが高い職種の企業誘致や賃上げなどを促して、社会的要因による人口流出を食い止めたい考えだ。財政支援として、市町村向けに新たな交付金も設ける。
ただ、これらの具体策に目新しさは乏しい。従来の対策も潮目を変えるまでには至っていない。特効薬が望めないなら、暮らしやすく、子育てしやすい地域づくりを地道に、着実に進めるほかあるまい。
地方にとってもどかしいのは、自前の対策には限界があることだ。賃金や教育環境、便利さといった都市部との格差は埋めがたい。そこは政府の役割となろう。
安倍政権は14年に「地方創生」をうたったものの、成果には乏しかった。中央省庁の地方移転は文化庁の京都移転にとどまり、企業の移転も大きな流れにならないまま、対策は尻すぼみになった。岸田政権は「次元の異なる少子化対策」を掲げる一方、東京一極集中への問題意識は乏しいようにみえる。
人口問題には長期的な取り組みが求められる。政府は目指すべき方向性を早急に提示する必要がある。