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2024.01.26 08:00

【京アニ放火殺人】凶悪犯罪が残す重い課題

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 京都アニメーションで2019年7月、社員ら36人が犠牲となり、32人が重軽傷を負った放火殺人事件の裁判員裁判で、京都地裁は殺人罪などに問われた青葉真司被告に求刑通り、死刑判決を言い渡した。
 争点だった被告の責任能力を認めた場合、凄惨(せいさん)な被害を踏まえれば極刑以外の選択肢はなかったということだろう。判決で一つの節目を迎えたが、未曽有の事件が社会に投げかけた課題は大きく重い。
 判決によると、青葉被告は70人がいたスタジオに侵入。1階で社員や周辺にガソリンを浴びせかけ、「死ね」と怒鳴りながらガスライターで放火し、全焼させた。
 被告はこれまでの公判で、同社の小説コンクールに落選した上、アイデアを盗用されたことが動機だったと説明。落選や盗用は「闇の人物」の意向だったとも主張した。そうした妄想が刑事責任能力にどのような影響を与えたかが焦点だった。
 精神鑑定で、医師2人は「詐病ではない」ことで一致したものの、妄想が動機に与えた影響については意見が割れた。
 人格に偏りがある「妄想性パーソナリティー障害」との診断を重視した検察側は、妄想が動機の形成に与えた影響は限定的だとして完全責任能力を主張。一方、弁護側は精神疾患に当たる「重度の妄想性障害」とする診断の妥当性を強調し、完全責任能力を否定した。心神喪失や耗弱を理由に、無罪や刑の減軽を求めていた。
 専門家でさえ見解が分かれるほど、被告の状態を把握するのは困難だ。裁判員は極めて難しい判断を迫られたに違いない。
 京都地裁はこの点、妄想性障害だったと認めたものの、多数の人が働いている時間帯をあえて狙った計画性や、直前にためらいを感じつつも犯行に及んだ強い殺意などを指摘。事件当時「善悪を区別し、犯行を思いとどまる能力が著しく低下していたとは言えない」として刑事責任能力があったと結論付けた。
 今回の裁判では、多くの遺族や負傷した社員が被害者参加制度を利用して法廷に臨んだが、被告の身勝手な主張に、家族や同僚を失った精神的な苦痛は深まったことだろう。カウンセリングなど支援制度のさらなる充実が求められる。
 精神的な負担は、死刑が求刑された裁判に参加し、判断を迫られた裁判員についても懸念せざるを得ない。今回の裁判では、弁護側が絞首刑の残虐性を訴えてもいた。裁判員裁判の導入から15年近くたち、国民はいや応なく死刑制度と向き合わなければならなくなった。
 未曽有の事件は心に深い傷を負った遺族や被害者への継続的な支援や建物の防火改修、社会的孤立など数多くの課題を突き付けている。
 一方で、世界的には廃止の方向へ向かう死刑制度については、判決が出るたびにその是非論が繰り返されている側面もある。あらためて根源的な議論を社会で深めることも忘れてはならない。

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