2023.12.17 08:00
【マイナ保険証】まだ信頼は回復してない
だが、国民の懸念は依然として根強い。利用の低迷が物語っていよう。普及を急いで混乱を招いた反省はどこにいったのか。信頼回復が伴わない見切り発車に、新たな混乱を懸念せずにはいられない。
健康保険証の廃止は昨年10月、河野太郎デジタル相が表明。ことし6月にマイナ保険証に一本化する関連法が成立した。本来、マイナカードの取得は任意のはずだが、保険証の廃止をきっかけに普及を図る狙いは明らかだ。
取得時に最大2万円分のポイントを付与する大がかりなキャンペーンもあって、カードの発行数は大きく伸びた。ただ、普及への焦りは結果として国民の不安を増幅させた。健康保険証や公金受取口座といった機能とひも付けする際の人為的ミスでトラブルが続出し、一部では個人情報が流出した。
関連情報の点検は、不信の増幅を止めるためには不可欠だったろう。他人のマイナンバーをひも付ける誤登録は、先行した点検分を含めて計1万5907件を確認。健康保険証のひも付け誤りは計8695件、障害者手帳では5645件のミスが判明した。
政府はこの結果を「ミスは極めて少なかった」(河野氏)と総括し、健康保険証の廃止に前のめりになっている。確かに、今回の点検で全体に占めるミスの割合は0・01%と低かったが、対象は専用サイト「マイナポータル」で閲覧できる情報に絞っていた。「総点検」でうみを出し切った、といえるかどうかに疑問は残る。
そもそも、国民の不安は確率の問題ではあるまい。1件のミスでも重大な影響を受けかねないからだ。健康保険証のデータは命や健康に直結し、他の機能とのひも付けも出生や所得など繊細な個人情報に関わる。ミスを警戒して、利用者側が慎重になるのは当然だ。
実際、マイナ保険証の利用率は10月は4・49%にとどまる。4月の6%台からむしろ低下した。ポイントを目当てに登録は済ませたものの、従来の保険証を窓口でそのまま使い続けている人が多いとみられる。それだけ不信感は強い。
さらに、医療現場では今もシステムの不具合などで「無保険」扱いとなり、患者が医療費の10割を請求されるトラブルも相次いでいる。利用を拡大すれば、混乱に拍車をかける恐れは否めない。
マイナンバーを巡る混乱の原因は強引な普及策にあった。国民の理解を得ながら、施策を進める重要性は政府も身に染みたはずだ。やはり、システムの信頼性を高め、利用のメリットを丁寧に説明することが普及への王道だろう。