2023.11.26 08:00
小社会 連れない時代
津軽海峡を渡った女の人生しかり。勝手にしやがれと背を向けた男のその後もしかり。エンドマークの後の物語はそれぞれ考えてくれていいと、亡くなる前年の著書「『企(たくら)み』の仕事術」にある。
いつも時代を意識し、作品に自らの企みをこめた。皆がバブル景気に浮かれ大股で歩いた頃、その歩幅の間にまたいで過ぎてはいけないものがあるはずだとの思いをこめた「時代おくれ」。男が去り女が残る、という時代でもあるまいと、そろってドアを閉めさせた「また逢う日まで」。
しかし、その希代の作詞家は先の本に「歌は世に連れ、世は歌に連れ」は死語になったか、と書いた。言葉が軽んじられ、言葉の基本が失われてはいないか、と憂えてもいる。
紅白歌合戦の出場者名簿にあれやこれやと話が出る時節。歌と世の連れ具合はどうだろう。ふと政治と庶民の連れ具合を考えもする。連れ合っていないから今の政治や世情がある、と思える。いや、連れ合っているから今がある、と逆さにも思える。
阿久さんが歌い手に託したようにはいかないと分かってはいるが、ささやかであっても、時代への思い、企みをこめて1票のペンをとりたい。きょうは県知事選と宿毛、高知両市の市長選。