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2023.11.21 08:00

【APEC会議】形骸化回避へ立て直しを

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 世界経済の分断が進み、自由で開かれた貿易・投資環境が後退すると国際秩序は不安定化しかねない。課題に対処するため協調へ向けた議論を深める必要がある。
 アジア太平洋経済協力会議(APEC)が採択した首脳宣言は、ロシアによるウクライナ侵攻に言及せず、パレスチナ自治区ガザ情勢にも触れなかった。国際枠組みでの対立を避けたことが、かえって再燃を印象づける結果となった。
 昨年のタイでの宣言は、侵攻をほとんどの加盟国・地域が非難したとする一方、異なる評価があったと両論を併記し、「世界経済に悪影響を与えている」との認識を示した。意見対立が続く中、採択見送りを回避するため国際会議などでとられていた方式を踏襲した。
 今回は、米国がイスラエル寄りの姿勢をとっていることが影響して、対ロ批判を後退させざるを得なかったようだ。宣言採択を優先すれば、非難の応酬となることは避けられなくなる。しかし、ウクライナや中東情勢に触れないようでは宣言も説得力を欠いてしまう。
 米国が出した議長声明は、「ウクライナ侵攻を最も強い言葉で非難する」と厳しい姿勢を貫いた。一方、ガザ危機については、意見交換をして「各国首脳はそれぞれの立場を共有した」とする。
 また、一部首脳はAPECは地政学的な問題を議論する場ではなく、侵攻やガザ危機を宣言に盛り込むことに反対したと明かす。米中を含め各国の立場の違いは明らかで、それを乗り越える方策を探ることが課題として浮上する。対応できなければ対立を先鋭化させ、組織は形骸化しかねない。
 APECは日本や米国、中国、ロシアなど太平洋を囲む21の国・地域が参加する。加盟国・地域の国内総生産(GDP)の合計は世界全体の約6割に達し、貿易量はほぼ半分を占める。巨大経済圏は連携強化の必要性が高まっている。
 アジア太平洋地域で米中の主導権争いが激化する中、宣言では自由で開かれた貿易の推進や、供給網の混乱への対処を再確認した。昨年の宣言とも重なる。自陣営に引き込む動きが強まっているのが実態で、実効性のある取り組みが求められる。
 宣言はほかにも、各国の関心が高い気候変動を含めた環境問題への対処などを盛り込んだ。これまでと異なる経済的課題に直面しているとの認識に立ち、「全ての人にとって回復力があり、持続可能な未来を創造する」との表明を具体化する責任ある行動が求められる。
 こうした取り組みを通して、対立や分断が目立つ国際社会の関係強化へとつなげていくことが重要となる。経済のブロック化を押しとどめる多面的な対策を展開することが欠かせない。
 首脳会議は宣言採択にこぎつけたとはいえ、組織は機能不全に陥りかねない側面があらわになった。自由貿易体制を堅持するために、立て直しが急務となっている。

高知のニュース 社説

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