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2023.11.15 08:00

【国立科学博物館】問われる文化行政の姿勢

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 東京の国立科学博物館が資金難に直面して行ったクラウドファンディング(CF)の結果が、大きな話題になっている。
 8月、1億円の目標を掲げてスタート。最終的に3カ月で目標の9倍を超える約9億2千万円が集まった。協力した人の数も約5万7千人に上った。
 年間予算の約4分の1に相当する額というから驚きだ。いかに博物館が人々に愛され、支持されているかが分かる。
 同時に、国立の冠を有した人気の博物館にもかかわらず、厳しい運営を強いられていることが明らかになった。国が交付する運営費ではやっていけない実態が判明した。
 これは国が国立大学の運営費の交付額を削減してきた問題とも共通する。科学や文化、教育の発展に対する国の姿勢が問われるといってもいい。「資金が集まったから一安心」で済ませてはならない。
 国立科学博物館は国内最大級の総合科学博物館で、前身は1877年に創立され、歴史も古い。現在も子どもから大人まで幅広い年代に親しまれている。
 豊富な標本や研究成果を生かした展示や教育活動が売りで、保有する標本数は微生物から恐竜の化石、飛行機など大型の物まで計約500万点。それらを基に動物・植物・鉱物・化石・人骨・科学技術史など多岐にわたる研究も行っている。
 だが、2001年に独立行政法人になると、国が運営費交付金を徐々に削減。ここ数年はコロナ禍や光熱費、資材、人件費の高騰も加わり、経営を圧迫していた。
 特に要となる標本の収蔵庫は空調などによる適切な維持管理が欠かせず、経費も大きい。国に追加の財政支援を要望したが認められず、CFに踏み切った。
 もちろん博物館側も入場料収入や寄付金を増やすなど自助努力は求められるだろう。今回のCFもその一環といえる。
 しかし、特別なプロジェクト費用を確保するためならまだしも、光熱費など基本的な経費までCFを余儀なくされるのはおかしい。法人化しているとはいえ国立施設だ。国は責任がある。実際、今回のCFの協力者にも国の対応を疑問視する声が少なくなかった。
 物価や人件費の高騰は当面続くことが見込まれる。この先も経費増を現場に押し付けるようなら、博物館の本来業務や質に影響しかねない。
 今回のCFはもともと人気のある施設ということもあって成功した。これが前例となり、国が同様の施設にCFや民間からの寄付を期待する流れになってはならない。
 CFの結果は、多くの人が博物館の充実、安定した運営を望んでいることを示した。国はそれを重く受け止め、予算を確保し、支援する必要がある。
 国立科学博物館に限らず、国立のそのほかの博物館や美術館にもいえるだろう。地方に多くある公立博物館なども同様である。

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