2023.11.09 08:00
小社会 イチョウと選挙
イチョウにはロマンがある。過去の本紙によると、2億年以上前に祖先とみられる植物が登場。恐竜がのし歩いたジュラ紀に最も栄えた。以来、生き物の栄枯盛衰を見つめながら世代をつなぎ、「生きている化石」と呼ばれる。
寺田寅彦博士が、イチョウの葉の散り方を興味深そうに書いた随筆「藤の実」が知られる。何の気なしにこずえを眺めていると突然、一度に落葉が始まった。「まるで申し合わせたように濃密な黄金色の雪を降らせる」
表現が面白い。「何かしら目に見えぬ怪物が木々を揺さぶりでもしているか」、「どこかでスウィッチを切って電磁石から鉄製の黄葉をいっせいに落下させた」ような感じとある。小欄も立ち会ってみたい不思議な場面だが、この随筆も博士の科学へのいざないだろう。
イチョウの季節は、高知では4年ごとに選挙の季節になる。きょうは知事選、19日には高知市長選が告示される。人口減が加速する郷土は、これからの盛衰が懸かる大事な時期といえる。かじ取りを誰に任せるのか。人ごとにはせず、きちんと選びたい。
いずれも投開票日は26日になる。県民市民が託した県と県都の責任者を、落葉の頃のイチョウも見つめているのだろう。