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2023.10.31 08:00

【袴田さん再審】早期の決着が望まれる

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 事件発生から57年たち、最初の再審開始決定からも既に9年が過ぎている。高齢で権利回復に費やせる時間は限られる。審理を長引かせてはならない。
 静岡県の一家4人が殺害された事件で、強盗殺人罪などで死刑が確定した袴田巌さんの裁判をやり直す再審初公判が静岡地裁で開かれた。拘禁症状が残る袴田さんの出廷は免除され、補佐人の姉、ひで子さんが罪状認否で無罪を主張した。検察側は有罪を主張した。
 最大の争点は、犯行着衣とされる衣類に付着した血痕の扱いだ。衣類は事件の約1年2カ月後にみそタンクから見つかった。
 血痕に赤みがあり、1年以上みそに漬けられて赤みが残るかどうか、検察と弁護側の意見は対立してきた。再審開始を認めた東京高裁判決は、弁護側鑑定の信用性を認め、赤みは消失するとの判断を示した。
 高裁は、確定判決で根拠とされた主要な証拠は、袴田さんが犯人だと推認させる力が限定的か弱いと評価した。さらに衣類に合理的疑いが生じたことで、袴田さんを犯人とは認定できないと結論づけた。
 さらに、捜査機関による捏造(ねつぞう)の可能性にまで踏み込んでいる。2014年に再審開始を決定した静岡地裁も同様の認識を示した。捜査の在り方に厳しい見方が向けられたことを真剣に受け止める必要がある。
 再審公判で検察は、補充捜査結果などに基づき主張を組み立てることになる。検察側は冒頭陳述で、袴田さんの着衣であり、本人がタンクに隠したと主張した。また血痕に赤みが残り得ると強調した。 
 再審を巡っては、静岡地裁がDNA型鑑定に基づき開始決定したが、18年の東京高裁決定は鑑定手法が信用できないとして取り消した。最高裁もこの判断を支持したが、争点を血痕の赤みに絞って高裁で再び審理するように求め、高裁は再審開始を決定した。
 静岡地裁は再審決定に伴い死刑執行の停止とともに、「耐え難いほど正義に反する」と袴田さんの約48年ぶりの釈放を認めた。再審は無罪を言い渡すべき明らかな証拠があった時に開始される。検察側の姿勢も問われることになる。
 検察は憲法違反などがある場合に限られる特別抗告は断念し、審理のさらなる長期化は避けられた。真相の解明はもちろん不可欠だが、公判を引き延ばすような対応には厳しい視線が向けられることを意識する必要がある。 
 そもそも裁判のやり直しに時間がかかることへの批判は根強い。再審開始決定への異議申し立ては再審公判で行えばよいとする意見がある。一方で刑事司法の安定性を損なうとの見方もあり、議論が不可欠だ。
 証拠開示の在り方も見逃せない。第2次再審請求では、地検が提出していなかった証拠約600点が開示された。高裁決定は、新証拠が過去に提出されていれば有罪との判断に達していなかった可能性に言及している。これも重要な論点だ。

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