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2023.10.26 00:04

【K+】vol.202(2023年10月26日発行)

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K+ vol.202 
2023年10月26日(木) 発行

CONTENTS
・はじまりエッセイ letter204 中西なちお
・K+インタビュー 話をしてもいいですか vol.204 釘崎美香
・特集 新風は永遠に|◎下本一歩
・フランス生まれの土佐人便り BONCOIN IN PARIS✉48
・高知を元気に! うまいもの熱伝 volume.76|やっこねぎ@香美市
・日々、雑感 ある日 vol.28/気の向くままに お気軽 山歩き ;43
・Sprout Table vol.14 Interface tapo.factory
・ちいさいたび #15
・K+ cinema 記憶のなかの映画館㉓
・+BOOK REVIEW
・なにげない高知の日常 高知百景
・小島喜和 心ふるえる土佐の日々 第四十九回
・Information
・シンディー・ポーの迷宮星占術
・今月のプレゼント

河上展儀=表紙写真

→紙面ビューアで見る

特集
新風は永遠に
◎下本一歩

炭焼きから始まった作家としての道。
竹の道具と作り手は、可能性を広げ続けて。

仙頭杏美=取材 河上展儀=写真




竹とずっと歩んでゆく

 竹細工作家・下本一歩さんをケープラス特集で初めて紹介したのは2009(平成21)年11月号でした。当時、高知市鏡吉原の祖父の暮らした土地に自ら家を建て、妻・なぎささんと長男と暮らしていた一歩さん。祖父がこの地で炭を焼いていたこともあり、炭焼きに面白みを感じ、炭を焼いて生計を立てながら、竹の道具を作り始めた頃でした。一日中炭を焼くので、待ち時間、生活に使える物を作ろうと竹のスプーンを作り始めたのがきっかけです。
 炭を卸していた高知市のギャラリーに作品を持ち込むと気に入ってもらえ、個展をすることに。その後、全国から引き合いがあり、作家の道へと進みます。取引先も増え、1人で注文に応じるには限界と、今はスタッフと一緒に5人体制で役割分担しながら作品を作っています。「1人黙々と作業するのが好きだったので、変わらずにやりたい気持ちもありましたが、前からやって来る変化は自然なことやないですか。それは自然に受け入れようと思いました」
 昨年、株式会社「竹と」を設立。竹とこれからもずっと、竹でできることをずっと。新しい明日への歩みが始まっています。




仲間と一緒に仕事する


 現在は、朝倉で暮らしつつ、山奥の工房に通っています。子どもとの時間を大事にしたいと、午後5時には仕事を終えて家に帰るそう。「昔は、夜遅くまで働く日も多かったけど、結局効率が悪かった。通うようになって仕事と生活のめりはりができました」
 5年前、作業用の工房を新たに建て、物作りの環境も整いました。週に2日、作家仲間などが働きにきてくれる、その時間が尊いそう。「1人の世界に閉じこもってはいけないと年を重ねて感じるようになりました。会話しつつ、人と一緒に仕事をする時間が今の自分には必要です」
 粗方(あらかた)をスタッフが行い、その後を一歩さんが仕上げます。竹を切る人、作る道具別にざっくり形を作る人、オイルを塗る人。皆の力を借りて、手仕事の品々が出来上がります。


個性あるデザインの裏側

 「誰も作ったことない物を作ろうという意気込みは全然なくて、あまり主張しない物がいい。使いやすい形の中に、ちょっと竹の部分を残したいというところからデザインが決まっています」。誰かに学んだことはなく、自分の思い描く物を独学で形にしてきた一歩さん。特長の一つともいえるのが、独自に見つけた方法で竹を燻(いぶ)すことで生まれる黒色。「竹の緑など、竹過ぎるのも嫌で。この黒がかっこいいと思っています」
 初期に作り、ロングセラーとなったお玉は、孟宗竹(もうそうちく)の節がさじ部分になり、持ち手に四方竹を使用。「四方竹は四角いから、持ちやすいので」と一歩さん。竹の節を上手に使った個性ある形状の美しさと、使いやすさを兼ね備えた道具たちは、多くの人に求められ、愛用されています。







防虫のため熱処理をした竹を炭窯にくべること約1週間で、竹の表面が一歩さんの好む黒色に燻される

防虫のため熱処理をした竹を炭窯にくべること約1週間で、竹の表面が一歩さんの好む黒色に燻される




プロフィール
下本一歩さん
高知市鏡吉原に窯を構え、炭焼き職人に。現在は、竹細工作家として竹製の暮らしの道具を製作。本名は、かずほだが、いっぽさんが愛称。南国市出身。45歳


一歩さんの作品は海外からの評判も良く、これからは海外に持っていくことも目指しているそう

一歩さんの作品は海外からの評判も良く、これからは海外に持っていくことも目指しているそう


●読者プレゼント
竹箸を2人にプレゼント。ご応募はプレゼント応募フォームよりどうぞ。



竹という素材への感謝

 元々、竹を素材として選んだのは、繊維が真っすぐで、他の木に比べ、曲げたり彫ったりしながら、思った形にしやすかったからだと言います。今は、違った面での良さを感じています。「竹はどんどん生えるので無限にある材料といってもいい。地域の人にも切ってほしいと頼まれ、その竹を使って仕事ができる。遠くから素材を取り寄せる必要もなくストレスなく続けられます」。竹が必要な一歩さんと、竹に困る地域の人。互いに助け合える環境がありがたいと話します。
 しなやかな曲線のトング、細くしても折れにくい箸など、竹の特長を生かして、いろいろな道具を作ってきました。数は、60種類ほどに。「竹でずっとやってきたので、これからも竹でどんなことができるか可能性を探っていきたいです」


新しいことをこれからも

 「自分だけではできないことも人が集まればできる」と、最近、他業種との共作に力を入れています。その一つで、今年、写真家とデザイナーと行った個展「下本一歩展」は、新鮮な気付きがありました。作品に加え、写真と映像で一歩さんを紹介。「作った物の背景を伝えることは大事だと思えたので、その試みをもっとしていきたいです」。人と出会った数だけ新たな発想が湧いてきます。
 炭焼きの合間の竹細工が大きく育って。14年前に特集してから、一歩さんは着実に作家として磨かれてきました。心動く何かに正直に向かう限り、新しい出来事は生まれ続け、研ぎ澄まされ、風となって広がると、その歩みが教えてくれます。
 山を巡り、笹(ささ)を揺らす風はどこまでも。1人の作家が進む先が、これからも楽しみです。


「竹の太さがそれぞれ違うので微調整は手作業でしかできません」と一歩さん。黙々と作業を続ける

「竹の太さがそれぞれ違うので微調整は手作業でしかできません」と一歩さん。黙々と作業を続ける


お玉は一歩さんを象徴する作品の一つ。パーツが多いため、作業が多く、一番手間がかかる作品なのだそう

お玉は一歩さんを象徴する作品の一つ。パーツが多いため、作業が多く、一番手間がかかる作品なのだそう





茶せんがモチーフの照明は、建築士と電気工事士の知人と一緒に最近手がけた作品

茶せんがモチーフの照明は、建築士と電気工事士の知人と一緒に最近手がけた作品


年中、一歩さん自身が近くの山に入り、作品作りに必要な大きさの竹を切ってくる

年中、一歩さん自身が近くの山に入り、作品作りに必要な大きさの竹を切ってくる





<取扱先>
暮らしのプロデュース 日日[にちか]
高知市葛島1-9-24
問/088-882-7030
HP/https://comonichi.com

セブンデイズホテル
高知市はりまや町2-13-17
問/088-884-7100
HP/https://www.7dayshotel.com

オーベルジュ土佐山
高知市土佐山東川661
問/088-850-6911
HP/https://www.orienthotel.jp/tosayama

DEN
香南市香我美町山北2871-1
問/0887-54-3568

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