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2023.10.08 08:00

【米下院議長解任】民主主義のゆがみあらわ

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 米下院本会議は、共和党のマッカーシー議長に対する解任動議を賛成多数で可決した。トランプ前大統領の影響を受ける同党内の強硬派議員が造反し、234年続く米議会で初めての解任劇となった。
 下院議長は、大統領の死亡時などに副大統領に次いでその権限を継承する要職だ。解任の混乱は、分断に揺れる米国の民主主義のゆがみを映し出す。後任議長の選出に手間取れば、政府機関の一部閉鎖やウクライナ支援の停滞など影響が国内外に広がりかねない。
 対立をあおる手法を駆使するトランプ氏の登場以降、米社会の分断は深刻化する一方だ。来年11月の大統領選が近づくにつれ、民主党と共和党はもちろん、共和党内の穏健派と強硬派の対立も先鋭化している。下院議長の解任もそうした流れのなかで起きた現象といえる。
 野党の共和党は下院で多数派を占めるものの、民主党との差はごくわずか。この構図のなかで少数の強硬派議員がキャスチングボートを握る形で発言力を強めている。
 混乱のきっかけは新会計年度(2023年10月~24年9月)の予算審議の難航だった。バイデン大統領とマッカーシー氏は5月、歳出規模を前年度並みに抑制することで合意。財政拡張を志向する民主党と緊縮財政を求める共和党が折り合った格好だ。しかし、共和党の強硬派が合意に反し、より大幅な歳出削減や移民対策強化を繰り返し求めたため、10月から政府機関が閉鎖される恐れが強まっていた。
 マッカーシー氏は11月中旬までの「つなぎ予算」成立にこぎ着けて危機を回避したが、その過程で強硬派の要求を退け、民主党と協力した。この対応が、一切の妥協を認めない強硬派による解任動議へとつながった。
 政府機関の閉鎖回避を優先した判断は妥当だったにせよ、マッカーシー氏の姿勢にも問題はあったろう。1月の議長就任に際し、強硬派に譲歩して議長解任動議に必要な議員数を1人に引き下げ、今回つけ込まれる形となった。一方でバイデン氏の弾劾訴追調査を指示。民主党からも信頼を得られず、解任の危機に際して見放された。
 ただ、属人的な問題と言い切れないところに、問題の深刻さがある。後任議長に誰が選ばれようと、マッカーシー氏と同じ弱みを抱えるのではないか。下院の拮抗(きっこう)した勢力図のなかで、共和党内の強硬派が実際の勢力以上に影響力を持つ状況に変わりはないからだ。
 米国議会の機能不全が長引けば、波紋は国外にも及びかねない。本予算の成立が遅れれば、ウクライナ支援が滞って戦況への影響が懸念される。信用不安から米国債の金利が上昇すれば、日米の金利差が拡大して円安がさらに進む恐れもある。
 少数派が多数派を振り回す米議会の現状を、米国の有権者はどう見ているのだろう。民主主義の建設的な議論には、時に協調や歩み寄りも必要なことを認識する必要がある。

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