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2023.09.28 00:04

【K+】vol.201(2023年9月28日発行)

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K+ vol.201 
2023年9月28日(木) 発行

CONTENTS
・はじまりエッセイ letter203 中西なちお
・K+インタビュー 話をしてもいいですか vol.203 森山蘭子
・特集 天と地が生む褐色|◎ユルクル
・フランス生まれの土佐人便り BONCOIN IN PARIS✉47
・高知を元気に! うまいもの熱伝 volume.75|イチジク@奈半利町
・小島喜和 心ふるえる土佐の日々 第四十八回
・なにげない高知の日常 高知百景
・Information
・+BOOK REVIEW
・シンディー・ポーの迷宮星占術
・今月のプレゼント

河上展儀=表紙写真

→紙面ビューアで見る

特集
天と地が生む褐色
◎ユルクル

土佐清水の自然に感謝しながら
昔ながらの柿渋染めで、
夫婦が生み出す暮らしの品々。

仙頭杏美=取材 河上展儀=写真



日本伝統の色に魅せられて

 足摺岬近くの空の下、庭に干された柿渋染めのリネン。潮風に吹かれ、時折揺れる褐色の布は軽やかで美しく。
 若い渋柿を搾汁し、発酵させ数年熟成させてできる柿渋。その歴史は平安時代からと古く、染料や塗料、民間薬などとして日本の暮らしの中で使われてきました。しかし、石油化学製品の流通などにより、柿渋の文化は薄れていきました。
 この伝統の柿渋染めに引かれ、2012(平成24)年に土佐清水に「ユルクル」を立ち上げた弘瀬剛敏さんと妻・いずみさん。ゆるり、くるくる、循環するような物作りをしたいという思いを屋号に込めて。
 それまで、別々の仕事をしていた2人。ある日、雑誌で見かけた柿渋に心奪われます。早速柿渋でバッグを作って使っていると、私も欲しいとオーダーが入るようになり、やがて、全国へ、海外へと広がっていったそう。それから、エプロンやコースターなど柿渋染めで暮らしの品々を生み出しています。
 「ユルクルの商品には、天と地を表すマークを入れています。その間で仕事させてもらっている感謝の気持ちを表したくて」といずみさん。土佐清水の自然は、夫婦の物作りに欠かせない存在です。




好きなことをなりわいに

 土佐清水市出身で、高校卒業後は、大阪や東京などで暮らしていた剛敏さん。東日本大震災を機に価値観が変わり、地元に帰郷。「海外の商品を日本に紹介するIT関係の仕事をしていたので、土佐清水や日本らしさを伝えられることを地元で始めたいと思いました」
 一方、神奈川県出身で、小学生の頃から土佐清水で暮らすいずみさん。事務職をしつつ、趣味で裁縫を楽しんでいました。
 地元で2人は出会い、柿渋を知ります。伝統の技術であり、土佐清水でも昔使われていた柿渋に魅力を感じた剛敏さん。周りの反響もあり、柿渋染めの品々を全国に届けようといずみさんに投げかけます。そして始まったユルクルの歩み。「あの時思い切って良かった。今は自分が好きなことして、人に喜んでもらえて幸せです」と、いずみさん。





使い捨てをなくせるよう再利用できる品として作ったコーヒーフィルター

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自然の力と手仕事でできる品


 元々、茶色や青など自然色が好きないずみさんは、柿渋の色やその特長に魅せられてきました。「柿渋染めの良さは、使うほどに味が出て、色あせても染め直して長く使えることです」
 商品になるまでには、手間と根気が必要。工程は、まず、生地を柿渋に漬けて染め、太陽をたっぷり浴びせて乾かします。その後、布を数日寝かし、今度ははけで柿渋を塗って干して。それを4、5回繰り返し、布が染まったら縫製へ。最後に仕上げ染めをし、約3カ月でやっと完成です。
 自分たちが使いたい物をお裾分けしたいという気持ちで作る品々。大量に作ることは望まず、仕事と暮らしのバランスを見ながら、心穏やかでいられる数を作ります。「自分の状態を整えておくことで、いい物作りができると思っています」と2人。



プロフィール

弘瀬剛敏さん
音楽の専門学校卒業後、ライブハウス運営会社で働き、その後IT関連会社で勤める。2011(平成23)年に帰郷し、翌年、「ユルクル」を設立。土佐清水市出身。45歳

弘瀬いずみさん
布や紙、手仕事などが好きで、趣味にしていた裁縫や物作りがなりわいに。「ユルクル」では、染めと商品作りを中心に行う。神奈川県出身。47歳




きっかけの「いとなみ舎」

 いずみさんは染めや縫製を、剛敏さんはネットショップの受注と発送、デザインを担当し、互いの長所を生かしながら役割分担して仕事を進めています。
 また、一棟貸しの宿「日々」も運営。さらに今年、新たにコミュニティースペース「いとなみ舎」をオープンさせました。月に1回、柿渋や草木染の体験を行い、地元の人や市外からの参加者が物作りを楽しめる場となっています。「宿で泊まり、体験をしながら土佐清水でゆっくり過ごしてもらいたい」という剛敏さんの願いが形になりました。
 さまざまな人が行き交うユルクル。「最近、物作りを仕事にしたい人などから相談を受けることが増えました。その人が一歩踏み出せたり、人と人が出会って何かが生まれたりする、きっかけの場にここがなればうれしいです」


経済圏とは違う豊かさを

 「空気が澄んで、食もおいしく、地元の暮らしが心地いい」という2人は、土佐清水を楽園と呼びます。
 剛敏さんは言います。「経済圏とは違う豊かさが高知にはあると感じます。それを幸せと思い、個々の幸福度が高い人が田舎に増えたらいいなと思います」
 いずみさんは言います。「自然豊かな土佐清水で暮らせて満足。同じように思い、楽しいことを一緒にしたいという仲間が1人でも増えたらうれしい」と。
 好きな場所で、好きなことをなりわいにしながら、訪れる人との出会いを喜ぶ毎日。それを与えてくれる自然に感謝しつつ、夫婦が作る柿渋染め。染め上がる褐色は、土佐清水の天と地が生み出した色。やがて、豊かさのお裾分けとして、求める人の元へと届き、その暮らしに、伝統の色を添えます。


チタンや鉄、銅など仕上げ染めに使う媒染液の成分によって色が変わる。セミオーダーで好みの色を注文可能

チタンや鉄、銅など仕上げ染めに使う媒染液の成分によって色が変わる。セミオーダーで好みの色を注文可能



いずみさんが初めて作り、剛敏さんに贈った柿渋染めのバッグ。経年劣化で味のある色合いに

いずみさんが初めて作り、剛敏さんに贈った柿渋染めのバッグ。経年劣化で味のある色合いに




染め物のワークショップのほか、音楽ライブや映画上映会なども開催。人が集う場所として動き出した「いとなみ舎」

染め物のワークショップのほか、音楽ライブや映画上映会なども開催。人が集う場所として動き出した「いとなみ舎」



2人と暮らす愛犬のこころ(右)、もも(左後ろ)、ルース(左前)が迎えてくれた

2人と暮らす愛犬のこころ(右)、もも(左後ろ)、ルース(左前)が迎えてくれた



古民家を改装した自宅兼工房には、まきストーブが。環境に負荷をかけないよう、なるだけ自然に近い暮らしをしているそう

古民家を改装した自宅兼工房には、まきストーブが。環境に負荷をかけないよう、なるだけ自然に近い暮らしをしているそう



◎ユルクル(yurukuru)
土佐清水市津呂26-1
問/Instagramまたは、HPのお問い合わせフォームから
※ワークショップの開催日や内容はInstagramで発信
HP/https://yurukuru.com
Instagram/@yurukurugram
<取扱先> 自社HPまたは、朝ごはん屋さん(土佐清水市)、アシズリテルメ(土佐清水市)、Cona-Cafe(須崎市)、 土佐和紙工芸村くらうど(いの町)など

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