2023.09.23 05:00
【首相の国連演説】協調へ具体的な行動を
ただ、力強さに欠けた印象は否めない。理想論を語ることはむろん重要だが、具体的な方向性や行動が伴わなければ説得力に乏しい。国際社会にどれだけ本気度が伝わったか、疑問は残る。
核兵器を巡る現状は極めて深刻だ。ウクライナ侵攻でロシアは公然と核で威嚇し、北朝鮮は核・ミサイル開発に突き進む。中国の核戦力増強にも不透明感が漂う。
核軍縮を「ライフワーク」と自負する首相は「国際法、法の支配をじゅうりんしている」とロシアを強く批判した。その上で、核拡散防止条約(NPT)体制を維持・強化し、現実的で実践的な取り組みを強化すると訴えた。30億円を海外の研究機関やシンクタンクに拠出して、議論の場を設置するとも表明した。しかし、日本の主張は国際社会にどう受けとめられたろう。
首相が重視するNPT体制は2015年、22年の再検討会議で、連続して最終文書を採択できなかった。ことし8月に開かれた26年会議に向けた準備委員会も、議長総括を公式文書として残せないまま閉幕している。機能不全といってよい。
長年の核軍縮の停滞にいらだちを募らせ、核兵器を持たない国々が核兵器禁止条約発効を主導した経緯もある。核保有国などが重視する「抑止」と、非保有国が目指す「軍縮」の間には依然として大きな隔たりがある。さらにウクライナ侵攻などで保有国の欧米とロシア、中国の間でも対立が深まり、核廃絶を巡る国際社会の構図は複雑さを増した。
米国の「核の傘」に依存する日本は核禁止条約に背を向け、締約国会議にオブザーバー参加すらしていない。唯一の戦争被爆国への期待はあっても、現状では信頼は得られまい。橋渡し役を担うための具体的な方針と行動が求められる。
ウクライナ侵攻は核軍縮に影を落としただけでなく、国際社会の分断や、安保理の機能不全をもあらわにした。首相は中国やロシアを念頭に、拒否権の乱用は「国連の対立を悪化させる」として、行使抑制の取り組みを訴えた。
拒否権を持つ常任理事国が紛争の当事者になると、身動きが取れなくなるのは、明らかな構造的欠陥といえる。国連改革は、その必要性が広く認識されながら、遅々として進んでこなかった。改革を強く求めているドイツやブラジル、インドなどと連携を深め、粘り強く働きかける必要がある。
国際紛争に加え、地球温暖化対策など世界が協調して取り組むべき問題は山積している。分断や対立を乗り越え、どう対策を加速させるか。困難であっても喫緊の課題だ。理想論を国際的な潮流とするための具体的な戦略が問われている。