2023.09.09 08:30
小さな神秘の世界 連載「マキノの庭」を終えて 牧野ら学者の執念、学名に
カンツワブキ【Farfugium hiberniflorum(Makino)Kitam.】
バイカオウレン(花)【Coptis quinquefolia】
バイカオウレン(実)【Coptis quinquefolia】
マイクジャク【Acer japonicum ,Parsonsii'】
ムジナモ【Aldrovanda vesiculosa】
ビロウドヒノデラン【Cattleya percivaliana ,Thiago'】
紙面を小さな庭に見立てて、牧野富太郎博士ゆかりの植物を紹介してきた「マキノの庭」。昨年5月から計110回、108種類の植物を県立牧野植物園(高知市五台山)で撮影した(写真の【】は学名)。
ほぼ全ての写真は、一般の来園者が立ち入りできる場所でできるだけカメラを近づけて狙った。唯一の例外は水生植物のムジナモ。園の協力で茎を輪切りにしてもらい、水中に浮かべてもらった。
複数回登場したのは、牧野博士がこよなく愛したバイカオウレン。1月にかれんな白い花、4月には実を紹介した。そして8月末、何げなく葉を真上から見下ろし、息をのんだ。5枚の葉の隙間越しに、根元に落ちた紅葉が見えた。まるで赤い“花”が咲いているよう。連載の最後、110回目に登場してもらったカットがそれだ。
1輪の花に向き合い、1枚の葉を日にすかし、目を凝らす。見る角度を変えるたび、違う姿が現れる。なぜ、こんな形なのだろう。どうしてこんな模様なのだろう。たくさんの問いが次々と浮かぶ。神の御業(みわざ)にめまいがしそうだ。
その疑問を突き詰めたのが、牧野博士ら多くの植物学者たち。スウェーデンのカール・フォン・リンネが18世紀に二名法による分類を提唱して以来、あまたの植物にラテン語の学名が付けられてきた。新種、変種、交雑種…。わずかな違いを見逃さず、研究し続ける学者の執念が学名には込められている。
私たちは普段、植物を和名で呼び、学名は知らない。この企画では、学名を付記することにこだわった。神秘に名を与えた先人たちにささやかな敬意を込めて。(森本敦士)