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2023.09.02 08:00

【中国の輸入停止】事業者支援を万全に

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 食の安全と健康を守るのは当然で、そのためには科学的根拠に基づく議論を深めることが重要だ。東京電力福島第1原発処理水の放出を巡り、日中両国の対立が激しくなっている。先鋭化させないように対話を探りつつ、影響がある事業者への支援に万全を期したい。
 放出が始まって10日近くになる。東電、国、福島県は周辺の海水や魚の放射性物質トリチウム濃度を測定している。分析結果を開示して安全性を訴え、放出への国際社会の支持拡大を狙う。
 一方、中国は「核汚染水」との非難を続けている。中国は日本産水産物の輸入を全面停止した。反日感情も高まり、嫌がらせや日本製品の不買などが起きている。
 中国は主要輸出国で、長期化すれば水産関係者が深刻な影響を受けかねない。加工業者は出荷停止で在庫が積み上がり、商談では値引きを持ちかけられることもあるようだ。
 政府は既に基金を設置した風評被害対策や漁業継続支援に加え、追加の支援に乗り出す方針を示した。国内消費の拡大や、米国や東南アジアなどへの輸出先の転換対策などを強化する。
 影響は高知県内にも及んでいる。中国人観光客に提供される予定だったカツオ料理が急きょ取り消され、各地で相次ぐ迷惑電話がかかっている。冷静な反応を示すツアー客もいるが、先行きは不透明だ。
 新型コロナウイルス禍から立ち直りを図る観光や飲食などに影響が広がる気配を見せる。十分な目配りと支援が欠かせない。
 放出を巡っては、日本国内でも世論調査の賛否は二分する。ただ、4割強が「どちらとも言えない」と最多で、戸惑う様子がうかがえる。何より、放出を巡る政府の説明が不十分と8割が判断していることは重く受け止める必要がある。
 風評被害への懸念は9割近くに上った。放出計画が国際基準に合致するとした国際原子力機関(IAEA)の評価が、そのまま受け入れられているわけではない。
 なおさら中国とは、放出までに説明と議論を重ね、理解を得る努力が求められたはずだ。対日圧力を強める背景には、国内経済の変調から国民の意識をそらしたい思惑が指摘される。中国は会談に応じなかったようで、そうした行動に説得力はない。それでも問題を拡大させないように仕切り直しを探る必要がある。対話の重要性が増している。
 岸田文雄首相は、中国側に科学的な意思疎通の実施を呼びかけている。だが、中国に軟化の気配は見えない。9月で調整していた日中首脳会談は困難視される。日本国内でも中国に対抗措置をとるように求める意見が出ている。冷静な対応が求められる。
 こうした状況下で、野村哲郎農相は処理水を「汚染水」と呼び、謝罪した。中国が繰り返す表現に同調したわけではないだろうが、つけ込まれかねない。緊張感を欠いた対応では政権の姿勢が疑われる。

高知のニュース 社説

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