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2023.08.26 08:00

小社会 軽い約束

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 「わたしらは侮辱のなかに生きています」。今年亡くなった作家の大江健三郎さんが2012年7月、東京・代々木公園で開かれた脱原発集会で発言した言葉を思い出す。

 福島第1原発事故を経てなお、大飯原発の再稼働を決めた政府への憤りがこもっていた。この言葉は作家、中野重治の短編「春さきの風」からの引用。戦前の共産党弾圧事件で逮捕、収監された若夫婦と赤ん坊。劣悪な環境の下、発熱した赤ん坊が死ぬ中で母親が発した。

 国家権力にけし粒のように小さく扱われ、消えゆく命。多くの国民の反対を押し切り、原発再稼働を広げていこうとする政府。主権者であるのに軽んじられている、国から侮辱されている…。そう感じても不思議はない。

 第1原発で始まった処理水の海洋放出も同じ。地元を中心に反対は根強い。とりわけ重いのは政府などが漁業者と交わした、「関係者の理解なしにはいかなる処分もしない」との約束。一国の首相がこうも簡単に破るのなら、私たちは何を信頼すればいいのだろう。

 放出は約30年続くという。不測の事態が起きないとは誰も断言できない。海洋放出以外に道は本当にないのか。処理水をため置く場所は、福島第2原発の敷地を含めて新たに見いだせないか。真剣に検討し国民に知らせることが今、政府に求められているのではないか。

 それなしでは国民はいつまでも、侮辱の中に放置されたままとなろう。

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