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2023.08.24 08:00

【認知症新薬】効果とリスクの浸透を

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 厚生労働省の専門部会が、アルツハイマー病の新薬「レカネマブ(商品名レケンビ)」について製造販売の薬事承認を了承した。近く正式に承認される見通しで、年内にも保険適用される可能性があるという。
 病気の進行につながる物質の除去を狙った初の治療薬で、困難な認知症治療に選択肢が生まれる意味は大きい。さらなる治療薬の研究開発、支援態勢の充実を両輪で進め、認知症の人がより安心して暮らせる社会を実現したい。
 認知症の高齢者は2025年に約700万人、65歳以上の約5人に1人に達するとの試算がある。このうちの6~7割がアルツハイマー病とされる。高齢化が進み、誰もが患者や家族になる可能性がある。
 これまでに実用化された治療薬は一時的に症状が改善するものの、その後は薬を飲まなかった場合と同程度のスピードで悪化する。治療薬のニーズの高まりに国内外の製薬会社が創薬に挑んできたが、長く足踏みが続いていた。
 新薬は製薬大手エーザイと米バイオジェンが共同開発した。アルツハイマー病は、患者の脳内に有害なタンパク質「アミロイドベータ」が蓄積し、神経細胞を傷つけて脳の一部が萎縮するという仮説が有力視されている。新薬はこの進行過程に着目。アミロイドベータにくっついて除去する抗体の薬で、病気の原因に直接働き掛ける「疾患修飾薬」と呼ばれる。
 臨床試験(治験)では症状の悪化を27%抑制した。エーザイによると、症状の進行を平均で約3年遅らせると推定されるという。投薬の対象となる軽度の患者とその前段階である軽度認知障害の人は、国内に500万~600万人いるとみられる。
 進行が緩やかになれば患者はその分生活の質を維持することができ、家族も介護までに時間的な猶予を確保できる。効果が期待できる早期の段階でいかに治療につなげるかが重要になってこよう。
 ただ、対象や効果が限られるほかにも課題は多い。
 脳のむくみや出血といった副作用が報告されており、医療機関は定期的な検査、副作用に適切に対応できる設備やノウハウが求められる。患者の経済的負担も大きい。米国での標準的な価格は年間約380万円と高額で、医療保険財政を圧迫する懸念もある。
 期待が大きいだけに、治療には効果とリスクに関する十分な説明と理解が欠かせない。さらに新薬開発が進み、より安全で負担が少ない治療の実現が待たれる。
 認知症の人が安心して暮らすには、治療の進歩とともに「共生」の視点も欠かせない。ことし6月に成立した認知症基本法は「認知症の人が尊厳を保持し、希望を持って暮らすことができるよう施策を総合的に推進する」とうたった。
 共生社会の実現には、認知症の人の社会参加や国民の理解を促すほか、支援態勢の充実が必要だ。継続的な取り組みが求められる。

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