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2023.08.23 08:00

【処理水放出へ】政府は地元と対話継続を

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 東京電力福島第1原発にたまり続けている処理水について、あす海洋放出を始める方針を岸田文雄首相が決めた。
 関係者から一定の理解が得られたと判断した。しかし、風評被害を懸念する地元の漁業者や全国漁業協同組合連合会(全漁連)は放出に反対したままだ。「見切り発車」との批判は免れまい。
 2015年、政府と東電は「関係者の理解なしに処理水をいかなる処分もしない」と約束もしていた。放出開始に漁業者らが反発するのは当然だろう。
 岸田首相は放出開始に当たり、風評対策やなりわい継続支援に全力を挙げる姿勢を強調した。「数十年の長期にわたろうとも処理水の処分が完了するまで政府として責任を持って取り組む」と誓った。
 関係閣僚会議では、放射性物質のモニタリング(監視)も強化する方針を確認した。政府としては強い姿勢をアピールしたつもりだろう。
 だが、漁業者らにとっては最初の約束がほごにされた状態にある。そこへ新たな約束をされても簡単には信頼できまい。
 首相は、廃炉や福島の復興のため放出は先送りできないとする。しかし政府が信頼されないようでは、それこそ復興に支障が出かねない。政府にはこの先も漁業者らとの対話を継続し、政府方針に理解を得るよう強く求める。
 その上で、少なくとも30年かかるといわれる放出の間、安全の確保や風評対策などを確実に実行する責任が問われる。
 福島第1原発では現在も、放射性物質に汚染された水が大量に発生し続けている。溶け落ちた核燃料を冷やすために投入される水と地下水が混じり合うためだ。
 汚染水はくみ上げて専用装置で浄化しているが、放射性物質のうちトリチウムは除去できない。このためトリチウムを含む水を「処理水」として原発敷地内のタンクに保管し続けている。
 たまる一方の処理水に対し、政府は21年、2年程度先をめどに海洋放出する方針を決定。東電は、処理水を海水で薄めながら海底トンネルを使って約1キロ沖に放出する計画を打ち出していた。
 この計画については国際原子力機関(IAEA)が先月、「国際的な安全基準に合致する」とした包括報告書をまとめている。
 だが安全と安心は違う。福島の漁業者らは原発事故により壊滅的な損害を受け、風評被害とも闘ってきた。出荷する魚介類に厳しい放射線量の基準を設けるなど安全性を強調。再興を図ってきた。
 海洋放出により再び風評被害が広がれば、これまでの取り組みが台無しになりかねない。さらに中国などが海洋放出に反発し、日本からの水産物輸入を制限するなど外交問題に発展している。
 食や漁業の将来に関わる問題でもある。政府や東電は重い責任を果たしていかなければならない。

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