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2023.08.24 00:04

【K+】vol.200(2023年8月24日発行)

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K+ vol.200 
2023年8月24日(木) 発行

CONTENTS
・はじまりエッセイ letter202 中西なちお
・K+インタビュー 話をしてもいいですか vol.202 福川文子
・特集 しなやかな明日|DEN 田内福美
・フランス生まれの土佐人便り BONCOIN IN PARIS✉46
・高知を元気に! うまいもの熱伝 volume.74|ヒメトウガン@南国市
・日々、雑感 ある日 vol.27
・気の向くままに お気軽 山歩き ;42
・なにげない高知の日常 高知百景
・Sprout Table vol.13 くだものの矢野
・ちいさいたび #14
・K+ cinema 記憶のなかの映画館㉒
・+BOOK REVIEW
・小島喜和 心ふるえる土佐の日々 第四十七回
・Information
・シンディー・ポーの迷宮星占術
・今月のプレゼント

河上展儀=表紙写真

→紙面ビューアで見る

特集
しなやかな明日
◎DEN 田内福美

無機質さが非日常へいざなうカフェ。
長く愛される空間をつくる店主は、
変わる明日に身を委ねて。

仙頭杏美=取材 河上展儀=写真




くつろげる場を提供して 

 そのカフェまでの道のりは、ミカン畑や田園が広がっていてのどかでした。香南市香我美町山北にある「DEN」。周りは緑に囲まれ、決して好立地ではないのに、17年前にオープン以来、訪れる人が絶えません。
 「無機質が好きなんです」という店主の田内福美さんがつくり出す空間は、モルタルの壁の室内に、錆(さ)びた金属、モノトーンが基調の家具が配置され、都会的。店内の家具や器選びにセンスを感じ、そこで時間を過ごせば、日常をひととき忘れられます。
 高知市のアパレル会社で10年以上勤め、ファッション業界が長かった田内さんですが、田舎暮らしがしたいと山北に移り住みました。「自分らしさが求められる世界にいたので、その時の癖が抜けてないのかも」と話すように、その着こなしは個性的で、かっこいい女性という印象。でも話せば、おしゃべりとお酒が好きという、からっと明るい人でした。
 田内さんがずっと大切にしてきたのは、「お客さんにゆっくり過ごしてもらうこと」。それ以外は、時々の気持ちを一番に、小さな変化を重ねてきました。変わることをいとわない柔軟さ。それは、心穏やかに生きる鍵なのかもしれません。


冷蔵庫に張られたショップカードやポストカードがアート作品のよう

冷蔵庫に張られたショップカードやポストカードがアート作品のよう






憧れの田舎暮らしを

 30歳頃、勤め先の新店舗のプロデュースを任され、店長として働いていた田内さん。やりがいはあったものの、忙しい日々の中、田舎でのんびり暮らしたいという思いと、全て自分が手がけた店をつくりたいという思いが募り、退職。山北の地に引かれ、今の場所に引っ越すことに。
 「最初は、カフェを開くとは考えていませんでした。本当は服屋をやりたかったのですが、田舎でやっていくのは難しいなと。インテリアも好きで、器や椅子などを集めていたので、それを生かせるのはカフェだと思いました」。ちょうどカフェが全国に増え始めていた頃。男性がカフェに行きづらいという声を聞いたので、男性も含め、誰もが来られる店にしようと、かわい過ぎない空間づくりを心がけました。


好きを集めたメニュー

 異業種への転身のため、教わりながらの店づくり。心に残るのは、料理を学んだ店のオーナーの言葉でした。「1品でいいから、自分がこれと思うメニューを作りなさい」。その言葉に励まされ、できたのがチキンライスセットです。旅先で食べて感動したシンガポールチキンライスがベース。「毎日食べに来るのは難しくても、また食べたいと来てくれるような1品を目指しました」
 また、当時、コーヒーも甘い物も苦手という大きな壁が。そこで、知人に紹介してもらい、自分でもおいしいと思える味を見つけ、仕入れることに。自身の感性で好きな味を集め、唯一無二の店へ。「専門で作っている人の味が何より一番と思っています。自分で全て作らないといけないと思わなくてもいいんですよ」と田内さん。


開業当時から変わらず、1品のみのランチメニュー・チキンライスセット。ゆで鶏と地元産の野菜が色鮮やかに盛られ、オリーブじょうゆや薬味などをかけていただく

開業当時から変わらず、1品のみのランチメニュー・チキンライスセット。ゆで鶏と地元産の野菜が色鮮やかに盛られ、オリーブじょうゆや薬味などをかけていただく


田内さんの好みのデザインで建てた店舗。隣には、妹が営む美容室を併設

田内さんの好みのデザインで建てた店舗。隣には、妹が営む美容室を併設







プロフィール
田内福美さん
高校卒業後、高知市のアパレル会社で長年勤め、2005(平成17)年に香南市香我美町にカフェ「DEN」をオープン。スタイリッシュな空間が人気。香南市野市町出身。52歳





人を引き付ける空間づくり

 作家さんの器やカトラリーで、すてきに盛り付けられたランチやデザートがいただけるのもDENの魅力の一つ。「昔はアンティークが好きでしたが、最近は、プロダクト的なのに少し人のぬくもりを感じるようなものが好み」と、ギャラリーなどに出向き、心つかまれた県内外の作家さんの器などを仕入れ、使っています。
 「好みは変わるので、また、タイミングが来たら、使う器や店の雰囲気も変わるかも」と田内さん。たとえ店の装いが変わっても、人を引き付け続ける空間づくり。そのセンスはどこから来るのでしょう。「子どもの頃から、ファッションやインテリアなどの情報は雑誌から得てきました。出かけた先で入った店のしつらえなども参考にしています」。常に自分の好みや憧れを探す時間を持つことは感性を磨くのにやはり大切なのです。


新たな夢に向かって

 「ピンチはチャンスという言葉が好き。失敗した後にこそ想像できないアイデアが生まれたりするから。そうやって、ここまでやってこられました」。いろいろなことを乗り越えつつカフェを営んできた田内さんは、仕事は面白く、趣味のテニスも満喫し、毎日が充実しているといいます。けれども、今にとどまらず、新たな夢を描きます。「この先、島に移り住んで、小さな食堂をしながらもっとのんびり暮らしたいです。100歳になっても、島で缶ビールを飲みながら、昔のことを思い出して笑っていられたら」。年を重ねた先に生まれた夢。それを話す田内さんは、とても楽しそうでした。
 変わることにしなやかに、前向きに。どんな小さなことでも、自分の好奇心に素直に進む明日は、きっと幸せに満ちているのです。





県内にあるお菓子屋alkuのカッサータや、ロールケーキ屋Rollのロールケーキなど、DEN用に仕入れたケーキなどがデザートメニュー

県内にあるお菓子屋alkuのカッサータや、ロールケーキ屋Rollのロールケーキなど、DEN用に仕入れたケーキなどがデザートメニュー







◎DEN
香南市香我美町山北2871-1
問/0887-54-3568
営/12:00〜18:00
休/月・火 ※ランチは要予約

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