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2023.08.15 08:00

【終戦の日】問われる平和国家の姿

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 「終戦の日」を迎えた。関係国に甚大な被害をもたらし、日本人だけでも310万人の犠牲者を出して国家存続の危機を招いた先の大戦の敗戦から、きょうで78年となる。
 惨禍への反省から戦争を放棄し、「専守防衛」を国是としてきた戦後の平和国家の姿はいま、岐路に立っていると言っていい。
 岸田政権は昨年末、安全保障関連3文書を改定。専守防衛を形骸化させかねない反撃能力(敵基地攻撃能力)の保有や防衛費の大幅増などを正式な方針とした。核兵器を含め、武力を保持していれば攻撃されないとする「抑止力」への依存を強めている。
 抑止力の効果については雄弁である。しかし、表裏一体である軍拡競争の弊害や、戦争に巻き込まれるリスクには正面から向き合っているように見えない。
 確かに国際情勢は緊迫度と不透明感が増している。開始から1年半近くが過ぎたロシアによるウクライナ侵攻はまだ和平の兆しすら見えず、日々犠牲者の増加が報じられる。
 中国は台湾の武力統一を排除しない強硬姿勢を貫く。北朝鮮の核・ミサイル開発はとどまるどころかエスカレートしている。地球規模では、欧米など民主主義国家と中ロなど専制主義国家の溝が深まる。
 それに伴い、国民の不安の高まりもうかがえる。6~7月の日本世論調査会の調査では「日本が今後戦争をする可能性がある」は49%に上った。防衛力の在り方には、国民も関心を向けざるを得ない状況ではあるのかもしれない。
 だが、向こう5年間で計約43兆円を投じるとした防衛費は内容、必要性、財源とも議論は深まらないままだ。軍拡に抑制的であろうとする姿勢はうかがえず、増税などで賄う財源確保の手法も含めて国民的な合意も得ていない。
 不安定な情勢に乗じる格好で、先端技術の軍事利用や、武器装備品の海外移転などの分野でも環境づくりを進めている。
 漠然としたムードで安全保障政策が決められる危うさは、歴史が示す通りだ。痛切な反省から日本国憲法は戦争放棄、平和主義を掲げている。戦没者を悼み平和を祈念する日にあって、いま一度、歴史を省み、原点を確認するべきだろう。
 安保政策の大転換は、以前ならこれほど容易に進まなかったのではないか。与党の政治家も含めて戦争の実相を知る世代が少なくなり、党内の慎重論や世論の反対が高まらなかったことも一因にあろう。
 体験者のバトンを受け、記憶を継承していく重要性は年を重ねるごとに増している。ウクライナでいま起きている非人道的な現実からも、反戦や不戦への思いを強めている国民は少なくあるまい。
 岸田政権が繰り返してきた「丁寧な説明」「国会の幅広い議論」は、岐路に立つ安保政策でこそ実践が求められよう。国民も「不戦の誓い」に立つ戦後日本の歩みをあらためて考える日としたい。

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