2023.08.07 08:00
小社会 沈黙の10秒
NHK出版の「ラジオと戦争」(大森淳郎著)にある。戦時中の新聞やラジオは、「報道報国」の名の下に大本営発表を垂れ流した。ラジオは「政府之(これ)ヲ管掌ス」とされ、旧逓信省が検閲した。敗戦後は一転して真実を報道せよという半面、「GHQ之ヲ管掌ス」が実態に。
GHQは、特に原爆報道に神経をとがらせた。日本放送協会の広島中央放送局に勤めていた男性が13年前、取材に答えている。「原爆の被害についてはもちろん、米国が原爆を落としたっていうこと自体、アウトでした」
印象的な放送があるという。あるアナウンサーが、原爆のことを書いた箇所に線が引かれて削除された原稿を読んだ。消された箇所にくると、じっと沈黙する。時間にして10秒ほど。そして、また読み始める。「彼なりの抵抗だったんでしょうね。あっぱれでした」
そんな戦時、戦後を経た権力とメディアの関係は、今はどうなのだろう。「けしからん番組は取り締まるスタンスを示す必要がある」。数年前、政権中枢がそう発言したとされる放送法の解釈変更問題が引っかかる。
きのうは広島原爆の日。おかしな兆しがありはしないかと考えつつ、炎天とせみ時雨の平和記念式典を見た。