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2023.08.02 08:00

【日銀緩和策修正】市場の動揺抑制も責務

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 金利の緩やかな上昇を容認して、円安や物価高と向き合う。日銀の植田和男総裁が就任後初めて金融政策の修正に動いた。市場の動揺を回避しつつ、景気を減速させない難しいかじ取りが続く。
 日銀は大規模な金融緩和策の修正を決めた。長期金利の上限は「0・5%程度」をめどとし、市場の動向次第では1%まで上昇することを容認する。長期金利の修正は、黒田東彦前総裁時代の昨年12月に上限を0・25%程度から0・5%程度に引き上げて以来となる。
 長期金利の上昇圧力が強まると、日銀は無制限に国債を買い入れる「指し値オペ」を実施して長期金利を0・5%程度にまで抑えてきた。植田氏は1%までの引き上げを念のための上限と位置付けながら、「長期金利の形成をもう少し市場に委ねる」と述べている。
 大規模緩和は市場による金利形成をゆがめることが指摘され、また国債の大量購入が財政規律を緩めたとの批判は根強い。今後も国債買い入れを迫られる場面は想定されるが、副作用を強く意識した対策に乗り出したことになる。
 また植田氏は、「金利操作の運用を柔軟化し、金融緩和の持続性を高める」と解説した。金融政策が「正常化へ歩み出すという動きではない」とも述べている。さらなる引き締めにつながると、解釈が先走りすることへの警戒だろう。
 2012年12月に第2次安倍政権が発足し、翌年に黒田体制となった日銀は「異次元」の緩和策でデフレ脱却を目指した。物価上昇率は安定的に2%とする目標を掲げ、当初は2年程度での実現をもくろんだが、取り組みが10年を経過しても達成できていない。
 物価の上昇は続いている。日銀の「経済・物価情勢の展望(展望リポート)」は、23年度の消費者物価の上昇率見通しを前年度比2・5%と上方修正した。企業による値上げの動きが長引いているためだ。しかし、企業業績が改善し賃金が上昇する好循環に入れてはいない。
 新型コロナウイルス禍からの経済回復や、ロシアのウクライナ侵攻が物価を押し上げる。インフレ抑止へ米連邦準備制度理事会(FRB)は利上げを図った。金利差から円安が進み、輸入物価が高騰して国民の暮らしを圧迫する。物価抑制は重要な政策課題となっている。
 展望リポートは24、25年度は目標の2%を下回ると予測する。大規模緩和を維持すれば円安を加速させ、物価に影響を与えかねない。
 一方、長期金利の上昇は、金融機関の企業向け融資や個人向け住宅ローンの金利上昇につながる。企業の景況感は、半導体不足の影響緩和や原材料価格の上昇一服などで改善傾向にある。急激な変動は景気を後退させかねない。金融政策の正常化の時期は見通せない。
 長期金利は9年ぶりの高水準を付けた。為替の動向も警戒が怠れない。出口戦略は困難が伴う中、市場との対話の重みが増していく。

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