2023.08.01 08:00
小社会 セミの教訓
イソップ物語は「伊曽保物語」に翻訳され、日本では16世紀ごろから広まったが、ルーツは古代ギリシャ人が語ったとされる寓話(ぐうわ)。この原話で登場したのは、キリギリスではなくセミだった(阿刀田高著「イソップを知っていますか」)。
やるべき事を怠ると後で困る、という教訓はさまざまな場面に通じる。社会や組織では、「責務を果たさないと信頼をなくしてしまう」と解釈してもいいだろう。
国際社会で今、唯一の戦争被爆国である日本の責務があらためて問われている。核兵器禁止条約で「核なき世界」に向けた「要」とされる諮問機関の専門家委員から、長崎の被爆者が落選した。
この候補は医師で、被爆者医療の知識も豊富。日本が貢献を期待された分野だった。どうやら核抑止を重視し、条約に背を向ける政府の姿勢が参加国から疑問視されたようだ。明らかに信頼を失いつつある。
きょうから8月。6日の広島、9日は長崎の原爆忌、15日の終戦の日へと続く鎮魂の季節を迎えた。酷暑のなか、遠くに響くせみ時雨。イソップの教訓を力の限り、叫んでいるようにも聞こえてくる。