2024年 04月29日(月)

現在
6時間後

こんにちはゲスト様

高知新聞PLUSの活用法

2023.07.29 08:00

【自動車保険不正】徹底した全容の解明を

SHARE

 中古車販売大手のビッグモーター(東京)による自動車保険の保険金不正請求問題は、創業一族が経営の一線を追われる事態に発展した。
 国土交通省は不当な自動車整備の料金を請求した疑いがあるとして、道路運送車両法に基づき全国34事業場の立ち入り検査に乗り出した。
 車両を故意に傷つけて修理代を水増しするといった顧客を裏切る、悪質な行為の横行にはなお不透明な要素が多い。監督官庁による全容の解明が待たれる。
 問題の責任を取って同社の創業者である兼重宏行氏は社長を、長男の宏一氏は副社長を辞任した。
 前社長は辞任に際して不正の発覚後、初めて記者会見し「経営層の関与は全くない」と言い切った。「こんなことをやるのかとがくぜんとした。許せない」と現場に責任を押し付けるような発言もしている。
 ただ、外部弁護士がまとめた調査報告書によると、経営陣が修理に伴う収益で不合理なノルマを課し、圧力に耐えかねた工場長らが不正に手を染めたとされる。
 前社長の経営思想を社員に伝える「経営計画書」には、幹部には部下の「生殺与奪権」を与えると明記。信じがたい上意下達の社風を映した内容に批判が高まり、不正の発覚を受けて計画書を撤回した。
 そもそも「知らなかった」では済まされないが、仮にそうだとしても、経営陣への忖度(そんたく)から不正を生み出す企業風土を醸成した責任は免れまい。本当に経営陣の関与がなかったのかは疑念がつきまとう。真相を明確にすべきだろう。
 同社に多くの出向者を出しながら、不正を見抜けなかった損害保険ジャパンの対応にも理解に苦しむところが多い。
 不正行為については「工場長からの指示があった」と内部告発した工場従業員の証言が、損保ジャパンなどに報告した調査結果では「指示はなかった」と改ざんされていたことも判明している。損保ジャパンは改ざんを把握しながら、金融庁に「不正の指示は確認できなかった」と報告。虚偽報告の疑いが出ている。
 ビッグモーターに対し、事故車両の修理に伴う査定手続きを一部省く優遇措置を取っていたことも判明した。保険金額を決める上でのチェックが甘く、水増し請求を助長した恐れがある。
 ビッグモーターは保険代理店としての存在感も大きく、店舗ごとに客に薦める損保会社を定め、シェアは損保ジャパンが圧倒的だった。
 保険業界を管轄する金融庁の調査は、損害保険大手にも向けられているという。不正を許す温床となる構造があるとすれば、改善につなげなければならない。 
 ビッグモーターの新社長は「業界全体の信用を失墜させた」と述べている。1社の不正発覚とはいえ、身近な自動車の修理や車検に不安を抱いた利用者は少なくないだろう。顧客が安心を取り戻すためにも、監督官庁を含めた関係機関は全容解明を徹底してもらいたい。

高知のニュース 社説

注目の記事

アクセスランキング

  • 24時間

  • 1週間

  • 1ヶ月