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2023.07.28 08:00

【供述誘導疑惑】検察への信頼が揺らぐ

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 河井克行元法相が実刑となった2019年参院選広島選挙区の大規模買収事件を巡り、東京地検特捜部の検事が不当な供述誘導をしていた疑いが強まっている。事実ならば刑事司法への信頼が揺らぐ事態だ。踏み込んだ調査と説明が求められる。
 買収事件では、元法相が妻の案里氏の当選のために地元議員ら100人に計2870万円の現金を提供し、買収側の2人は実刑が確定した。一方、金を受領した100人について検察は全員を不起訴処分とし、検察審査会の「起訴相当」の議決を受けた再捜査の結果、34人が在宅・略式起訴されている。
 供述誘導は、30万円を受け取ったとして起訴された元広島市議の弁護人が、録音データとともに明らかにした。
 元市議は検察の任意聴取に対し、当初は買収されたとの認識を否定していたが、不起訴を示唆された上で買収目的の現金と認めるよう促され供述調書に署名した。検事から「全面的に認めて、反省していることを出してもらい、不起訴であったり、なるべく軽い処分というふうにしたい」との発言があったとする。
 また検察は、調書通りに買収されたとの趣旨を法廷で証言するよう求めたともいう。
 刑事訴訟法は任意性が疑われる供述は証拠にできないと定めている。18年に導入された司法取引制度も公選法違反は対象外だ。
 市議側の訴え通りなら、検察は、元法相の有罪に向けて都合の良い供述を得るために、認められていない「裏取引」をしたことになる。元市議側は27日にあった初公判で、「買収の報酬との認識はなかった」などと無罪を主張した。
 もともと、選挙の公平性を損ねかねない悪質な現金授受事案にもかかわらず、受領側の100人全員を不起訴とした検察の対応には疑問の声があり、「裏取引」があった可能性は指摘されてきた。実際、受領側からは他にも「供述を誘導された」との声が上がっている。
 検察側は供述誘導を一貫して否定してきたが、録音データが示されたことで最高検は一連の経緯を調査する。もし供述誘導があったのであれば、それに至った組織的背景などにも踏み込むべきだ。
 懸念されるのは、かつて批判を受けた独善的で強引な体質が、依然として検察組織に残っているのではないかということだ。
 10年には、厚生労働省局長だった村木厚子さんが逮捕された事件で、大阪地検特捜部で証拠の改ざん、隠蔽(いんぺい)があった。「筋書きありき」で手段を選ばない姿勢が冤罪(えんざい)を生み、これを機に、取り調べの適正化に取り組んできたはずだ。改めて組織を自己検証する必要がある。
 証拠固めでの供述への過度な依存から脱却するため、逮捕後の取り調べは全て録音、録画することが義務づけられたが、事件の筋書きは任意捜査段階で描かれる。録音、録画の義務化を任意段階まで広げる必要性も検討するべきだ。

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