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2023.07.24 08:00

【英TPP加盟】自由貿易の恩恵を広く

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 ロシアのウクライナ侵攻や米中対立で経済の分断が進む中、環太平洋連携協定(TPP)に英国が加盟する。通商枠組みとしての存在が試される局面であり、自由貿易の再構築へつなげていきたい。
 日本など加盟11カ国が閣僚級会合で正式に承認した。協定が2018年に発効してから加盟国が増えるのは初めてで、12カ国体制となった。英国の参加で、経済圏はアジア太平洋地域から欧州に広がる。
 TPPは米国がトランプ前政権下に自国産業の保護を優先して離脱し、存在感の低下が指摘された。日本政府は米国に復帰を求めているが、バイデン政権は慎重だ。
 一方で中国に対抗する枠組みとして、インド太平洋経済枠組み(IPEF)を打ち出し、半導体の供給網強化や化石燃料依存の低減などを進めている。米中対立の軟化は見通せず、対立に巻き込まれることへの警戒感も根強い。
 世界経済は分断の傾向を強めている。そうした中、欧州から新加盟国を迎えたことはTPP拡大を印象づけ、新たな段階に入っていくことになる。英国は経済規模で世界6位であり、名目国内総生産(GDP)は合計で3割近く増えて、世界全体の12%から15%に高まる。
 英国は20年に欧州連合(EU)を離脱した。アジア太平洋を重視する外交戦略を展開し、アジア諸国と経済連携協定(EPA)などを結んできた。このため、TPP加盟がもたらす直接の恩恵よりも、加盟することの象徴的意味合いに重きを置いた対応との見方もできる。
 日本と英国は21年に2国間のEPAが発効している。日英間の貿易や投資への影響は限定的とみられる。とはいえ、輸出する精米の関税が撤廃されることに伴うコメ輸出の拡大など、効果への期待は大きい。
 TPPは加盟国を増やすことが大きな課題だ。交渉の加速が求められる。今回、発効後初の加盟国を迎えたことで、他の国・地域にいかに門戸を開くか先送りできない問題に直面することにもなった。
 中国、台湾、ウクライナの新規加盟が焦点となる。特に中国と台湾の扱いは懸案だ。
 中国の加盟申請は経済大国としての存在感を示しながら、内政問題と位置付けて譲らない台湾をけん制する狙いがある。台湾にとっては独自の外交を印象づけたい意図が見て取れる。台湾が有利との見方があるようだが、対立を先鋭化させないように丁寧な調整が必要となる。
 加盟交渉の手続き開始には全ての既存加盟国の同意が必要となる。日本政府は中国の覇権拡大を懸念して慎重な立場を取る。一方、自国の経済的利益を考慮して柔軟な姿勢を見せる国もある。交渉入りは判然としないが、加盟国間の交渉は思惑が複雑に絡み合いながら進みそうだ。
 TPPの高い自由化のレベルを満たすかを見極めることが基本となる。加盟国の連携を深めながら、自由貿易の恩恵を行き渡らせる方策を多面的に模索する必要がある。

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