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2023.07.23 08:00

【処理水放出】中国は圧力より対話を

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 東京電力福島第1原発の処理水の海洋放出は、安全性への理解や風評対策は国内外で十分に進んだとは言い難い。中でも中国が批判の動きを強めている。政治問題化させないよう、対話を重ねる必要がある。
 放出計画を巡っては、安全性を検証してきた国際原子力機関(IAEA)が「国際的な安全基準に合致する」との包括報告書を公表している。人や環境への放射線の影響は無視できるほどわずかだとした。設備面での前提条件も整い、政府が「夏ごろ」を目標としてきた放出開始時期は8月中が有力視される。
 これに対し、福島県漁業協同組合連合会(県漁連)は放出反対の姿勢を崩さない。政府と東電は2015年、県漁連に関係者の理解なしに処理水のいかなる処分も行わないと約束している。風評被害の拡大を懸念する地元漁業者に寄り添い、理解を得ることは大きな課題だ。
 一方、中国や韓国からも批判が上がる。中国は東南アジア諸国連合(ASEAN)諸国や周辺の島しょ国と懸念を共有しようとする動きを見せ、国際社会を巻き込んで対日圧力を強めることをもくろむ。
 食品への影響を注視するとしてきた中国税関当局は、日本からの輸入水産物に全面的な放射線検査を始めた。大量の鮮魚などが検査のために留め置かれ、鮮度が維持できずに1億円規模の損害が出る恐れがでている。日本側の漁業者や輸出業者に損害が拡大する懸念がある。
 国民の健康に責任を負うとする中国側の主張はもっともらしいが、まだ放出が始まっていない段階での反応は過剰であり、かえって思惑をさらけだすようだ。中国の消費者の食の楽しみまで奪うことになる。
 日中間には沖縄県・尖閣諸島や台湾を巡る対立、半導体規制など懸案が山積する。対日批判を強めて何らかの譲歩を引き出したいのだろうが、政治的意図で問題を先鋭化させても対立を深めるだけだ。
 日中外交トップの会談も平行線をたどった。あらゆるレベルでの意思疎通の継続を確認しており、粘り強く説明を重ねるしかない。韓国政府はIAEAの評価に理解を示すが、野党は抗議を強めている。政権運営にも影響しかねない。
 欧州連合は、原発事故後に日本産食品に課してきた輸入規制を8月に撤廃する。処理水の風評被害の払拭にも追い風にしたい。ただ、批判が強まれば規制を強化する動きにつながりかねない。引き続き丁寧な対応が必要となる。
 日本政府は、海洋放出する放射性物質トリチウムの年間放出量は中韓を含む海外の多くの原子力関連施設と比べ低い水準にあると説明する。科学的根拠に基づき国際基準に沿った対応だと強調し理解を求める。
 科学的に安全性を訴えることはもちろん重要だが、地元漁業者らが警戒する風評はそれだけで抑えられるものではないだろう。そもそも日本国内でも放出に十分な理解を得られているわけではない。やるべきことはまだ多くある。

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