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2023.07.19 05:00

【穀物輸出の危機】露は早急に合意復帰を

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 黒海を通じたウクライナ産穀物の輸出に関する同国とロシア、トルコ、国連の4者合意が期限を迎え、ロシアは延長に同意せず、枠組みから事実上離脱した。食料を「人質」にする、極めて卑劣な行為にほかならない。
 国際社会、なかでも貧困国では供給不足や価格高騰が人々の命を危険にさらしかねず、抗議活動に拍車をかけて政情不安をもたらす恐れもある。国際社会はロシアに4者合意への復帰を促すとともに、急ぎ打開策を探る必要がある。
 昨年2月にロシアが世界有数の穀物生産国、ウクライナに侵攻し、黒海が封鎖されて輸出が停滞。小麦などの国際価格が急騰した。トルコと国連の仲介で、主要湾港の南部オデッサ港などからの輸出再開に合意。民間船の安全航行を保証することにより、昨年8月から計3300万トンの穀物が積み出された。
 輸出の再開で、国連食糧農業機関(FAO)の食料価格指数は、昨年3月の過去最高値から侵攻前よりも低い水準にまで低下。国連は4者合意が価格の押し下げにつながったと分析する。
 ロシアも4者合意による「人道回廊」の重要性は十分に認識していよう。これまでも度々、離脱をちらつかせながらも延長に応じてきたことが示している。
 枠組みが破綻すれば、ウクライナ産への依存度が高い中東やアフリカ諸国で食料危機が再燃する恐れが出てくる。食料を戦争のカードに使う手法だけでも許されざる行為だが、ここに来て一線を越えたといってよい。
 プーチン政権にとって4者合意は、食料危機による批判の矛先をかわすほか、対ロ制裁に加わらず停戦交渉の仲介に積極的なトルコのエルドアン大統領の顔を立てる意味もあったろう。だが、戦闘の長期化で4者合意がウクライナの利益になっているとの国内世論を抑え込む余裕がなくなってきたのではないか。
 離脱の理由として、合意に含まれていたロシア産穀物の輸出正常化の約束が実行されていないと批判する。ロシアの経済活動にとって、欧米などによる経済制裁が大きな制約になっていることは確かだとしても、説得力に乏しい主張といわざるを得ない。
 輸出の妨げとする国際決済ネットワークからの排除も、全ての金融機関が対象ではない。制裁の抜け穴を通じてエネルギー輸出は継続し、商業貿易が全面的に閉ざされたわけではない。その制裁も隣国に武力侵攻して自ら招いている。ウクライナ危機とは無関係である人々を食料危機に陥れかねない合意離脱とは、とても同列に議論はできない。
 ロシアは国際的な孤立を回避するため、自国産穀物を貧困国に無償援助する判断に傾いたとされる。しかし、実効性は不透明だ。国際社会にさらなる混乱を招けば、批判は免れまい。人道にもとる合意離脱をあらため、混乱の根源である武力侵攻を即時停止するべきだ。

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