2023.07.16 08:00
【日本産食品規制】安心へ説明さらに強化を
日本の食品輸出先としてはEUの位置付けは高くないが、他の規制導入国に与える影響は大きいだろう。拡大が続く日本産食品の輸出に弾みがつくことが期待される。被災地の復興にもつなげたい。
気がかりなのは、この夏にも開始が計画される福島第1原発の処理水の海洋放出だ。中国や香港は計画に反発し、逆に輸入規制を強める方針を示している。
経済安全保障などで米国に歩調を合わせる日本への政治的攻勢とも受け取れるが、海洋放出は韓国世論でも反発が強い。慎重な対応が求められる。
放出を巡っては、風評被害を懸念する福島の漁業者ら国内の理解も得られていない。これでは海外に対しても説得力が乏しくなる。
日本政府は、安全性について科学的なデータに基づく発信をさらに続ける必要がある。その上で、安心や信頼も得られる丁寧な説明が国内外で欠かせない。
EUの規制撤廃は、ベルギーで開かれた日本とEUとの定期首脳協議の共同声明に盛り込まれた。
原発事故後、最大55の国・地域が日本産食品の輸入を規制したが、安全性が認められて徐々に撤廃。EUも段階的に規制品目を縮小してきたが、福島県や宮城県など10県の野生キノコ類や一部の水産物などの規制を継続していた。
欧州はもともと食品の輸入に対し安全基準が厳しいことで知られる。EUが今回、科学的なデータを基に改めて安全性を確認し、残る規制も撤廃を決めた意義は大きい。
EUの判断を受け、規制を続けるのは中国や香港、台湾、韓国など11の国・地域となる。これらの国・地域にも引き続き、規制撤廃を粘り強く働き掛けていきたい。
ただ処理水の海洋放出の影響は予断を許さない。
農林水産省の統計によれば、2022年の農林水産物・食品の輸出額は総額1兆4148億円。これは原発事故後の12年の3・15倍に当たり、コロナ禍前の19年と比較しても1・55倍に拡大している。
これを支える大口の輸出先が水産物の取引も多い中国と香港だ。22年実績では、双方への輸出額合計は世界への全輸出額の3分の1以上を占めた。中国政府の動向によっては、拡大してきた輸出が打撃を受ける恐れがある。
日本政府は中国に安全性を示しながら、対話を重ねることが重要になる。何より、日本国内での放出への理解が不可欠だ。
先に国際原子力機関(IAEA)が処理水放出は「国際的な安全基準に合致する」との報告書を公表した。ただ、それで直ちに信頼が醸成されるわけではない。
危惧するのは、政府がこれを錦の御旗に放出を強行することだ。大きな禍根を残す事態になりかねない。