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2023.07.15 08:00

【クラスター弾】非人道性の激化懸念する

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 米国が、殺傷能力の高いクラスター(集束)弾をウクライナに供与した。しかし、強力な武器が次々と投入されることで、民間人の犠牲やインフラの被害が拡大することは必至だろう。
 戦争の長期化に伴い、非人道性のエスカレートが懸念される状況だけに、和平を探る取り組みの重要性が増している。ロシア軍の早期撤退へ国際社会で圧力を強めたい。
 クラスター弾は1発の親爆弾の中に、数個から数百個の子爆弾が詰められた兵器。空中で子爆弾をまき散らし、広範囲を無差別に攻撃する。第2次大戦やベトナム戦争、イラク戦争などで使われた。
 戦後、不発弾で子どもが遊んでいて爆発したケースもある。直接の威力もさることながら、長期にわたって危険性が残る特徴に非人道性が指摘される。
 2010年に発効したオスロ条約ではその使用や開発、輸出入を全面的に禁止。日本を含め、110を超える国々が加盟する。ただ、ロシアやウクライナ、米国は条約に加盟していない。国際人権団体によると、ロシアがウクライナを侵攻した昨年2月以降、双方ともにクラスター弾を使用しているという。
 米国は従来、非人道的な兵器の供与に慎重で、ロシア軍のクラスター弾使用を強く非難してきた。その姿勢を転じた背景には、ウクライナによる反転攻勢の行き詰まりがあるとみられる。
 戦況はすでに「弾薬が戦争の鍵を握る」と言われるほどの消耗戦に陥り、ウクライナ軍は弾薬が枯渇。ロシア軍の強固な防御を崩せず、苦戦しているという。米国もこれまでの支援で通常弾薬の在庫が不足しており、クラスター弾の供与でその穴埋めを図る狙いのようだ。
 米国は供与への批判に対して、ロシアの不発率が30~40%に上るのに対し、供与するクラスター弾は2・5%以下だと強調。ウクライナ政府が民間人被害のリスクを最小化すると米国に文書で確約したと国際社会に理解を求めた。
 だが、混乱した戦場で「限定」した使用などは極めて困難だ。クラスター弾投入で戦争の非人道性が一段高まったことに変わりはない。次第に凄惨(せいさん)さを増すのは戦争の本質と言っていい。ロシア軍は戦術核の使用をちらつかせ、占領するザポロジエ原発でテロを準備しているとの情報もある。これ以上の激化を避ける必要がある。
 米国のクラスター弾供与には、ウクライナ支援で一致する北大西洋条約機構(NATO)の一部加盟国も反対を表明していた。オスロ条約の加盟国だ。非加盟国に対しても不使用を働きかける条約の規定を踏まえた対応だったに違いない。
 一方、日本政府は米ウクライナの「2国間のやりとり」(松野博一官房長官)として、供与を追認した。「われ関せず」で加盟国の責務を果たしているといえるのか。非人道性の高まりを食い止め、和平につなげる行動を求める。

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