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2023.07.13 05:00

【トイレ制限訴訟】共生へ社会的議論深めよ

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 性同一性障害で女性として働く経済産業省職員が職場の環境改善を求めた訴訟で、最高裁第3小法廷は、女性用トイレの使用制限を認めないとする判断を示した。トランスジェンダーなど性的少数者の職場環境を巡る初の判断で、最高裁は権利擁護を進める司法の姿勢を明確にしたといえる。
 ただ、判決は人間関係が限られた職場という個別事情を強調し、一般的な解決の困難さも指摘した。多様性の尊重と共生社会の実現に向け、社会全体にさらなる議論の深まりを求めた格好だ。
 判決によると、職員は入省後に性同一性障害と診断された。2010年に同僚への説明会を経て、女性の容姿で勤務を始めている。
 しかし、数人の女性職員が違和感を抱いているとして、勤務フロアと上下1階ずつの女性用トイレは使用を制限された。これを不服として、人事院に行政措置要求を申し立てたが、15年に退けられた。
 最高裁は、離れた階で女性トイレを使用してもトラブルがなかった状況などを踏まえ、「日常的に不利益を受けている」と指摘した。その上で、経産省が処遇の見直しなどを長期間、検討しなかったことを重視。人事院判定も「同僚らへの配慮を過度に重視して、著しく妥当性を欠き違法だ」と結論付けた。
 使用制限を適法とした二審の東京高裁も、自認する性別に即して社会生活を送ることは、「重要な法的利益」と認めていた。今回、逆転判決となったのは、周囲の不安の把握や理解を深めるための研修といった、職場としての対応が不十分だったからだ。企業や職場の責任を指摘して、共生しやすい職場づくりを促したといってよい。
 一方、各裁判官は補足意見で、公共施設など一律の対応の難しさにも言及している。性的少数者の切実な声を最大限尊重するにしても、多数者の不安も軽視はできない。そのバランスをどう調整するかは二審と判断が分かれた要因にもなった。合意形成に向け、社会的な議論の必要性を投げかけた。
 金沢大などが昨年実施したアンケートでは、トランスジェンダーが職場で自認に沿ったトイレを使うことに「抵抗はない」とした人が7割余りに上ったものの、当事者の4割以上は希望通りのトイレを利用できていないと回答している。抵抗がある人の目を気にしたり、気兼ねがあったりするのだろう。
 トイレの使用は生活行動の一部にすぎない。自認する性に即して誰もが生きやすい社会を実現するには、一段と社会的な理解を引き上げる必要がある。
 先の通常国会でLGBTなど性的少数者への理解増進法が成立したものの、日本は先進7カ国(G7)で唯一、性的指向や性自認に基づく差別を禁止する法令がない。対応の遅れは明らかだ。法的な権利擁護を急ぎながら、差別のない社会へさらに議論を積み重ねていかなければならない。

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