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2023.07.12 08:00

【袴田さん再審】審理を長期化させるな

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 事件から57年たって裁判がやり直されるが、審理は長引く可能性がある。真相の解明をないがしろにできないのは当然だが、公判の引き延ばしは重大な問題をはらむ。時間の制約があることを真剣に受け止めて対処する必要がある。
 袴田巌さんの再審公判で、検察側は袴田さんの有罪を立証する方針を静岡地裁に伝えた。1966年に静岡県の一家4人が殺害された事件を巡り、袴田さんは死刑が確定した。第2次再審請求の差し戻し審で、東京高裁はことし3月、再審開始を認める決定をした。
 事件から約1年2カ月後にみそタンクから見つかった5点の衣類に付着した血痕に赤みがあり、みそ漬けでその色が残るかが争われた。検察は独自の実験で赤みを観察できたと主張したが、高裁は弁護側の実験結果などに基づき、赤みは残らないと判断した。
 高裁は、捜査機関側が証拠を捏造(ねつぞう)した可能性が極めて高いとまで踏み込んだ。2014年の静岡地裁の決定も同様に指摘している。検察側には組織のメンツに関わるとの不満が強く、特別抗告で最高裁の判断を仰ぐ意見もあったとされる。しかし、最高裁が一度、争点を絞った差し戻し審で退けているため断念したという。
 検察は再審公判で補充捜査結果などを基に有罪立証を組み立てる。確定判決で「犯行着衣」と認定された衣類は袴田さんが事件当時に着用し、実験では赤みが残る例が多数観察されたと主張する。
 衣類が再び焦点になる。東京高裁は弁護側の主張を専門的知見により合理的に推察できると指摘した。一方、検察は捏造の可能性にまで言及され承服しがたいと推察できるが、補充捜査での証拠価値が改めて検討されることになる。
 高裁決定を受けて特別抗告ではなく再審公判に進んだことで、さらなる審理の長期化はひとまず避けられた。とはいえ、検察側が有罪立証すれば時間がかかることになる。弁護側は引き延ばしだと批判している。
 再審は無罪を言い渡すべき明らかな証拠があった時に開始される。袴田さんに無罪が言い渡される公算が大きいとみられる。
 再審開始決定をした静岡地裁は、袴田さんの死刑執行を停止し、「耐え難いほど正義に反する」と釈放を認めた。冤罪(えんざい)の可能性が高まるが、袴田さんは高齢で時間が限られる。それだけに、裁判所の訴訟指揮も重要となる。
 一方、再審制度の見直しも見逃せない論点となる。静岡地裁の再審開始決定から9年たってようやく開始されることになった。検察側の不服申し立てが再審手続きを長期化させる一因だ。不服の主張は再審公判で行うように求める意見は根強い。
 第2次請求の審理では、地検が提出していなかった証拠約600点が開示されるなど、証拠開示の在り方も改善の必要性が指摘される。制度の充実と救済へ議論を高めることが欠かせない。

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