2023.07.09 08:00
【殺傷武器の輸出】国の在り方をゆがめるな
防衛装備の移転については、昨年末に改定した外交・防衛の基本方針「国家安全保障戦略」に「見直しを検討する」ことが盛り込まれていた。与党の実務者協議もこの流れにある。政府・自民党は「反撃能力」(敵基地攻撃能力)の保有や防衛費の大幅増などを進めてきた。防衛装備品でも輸出拡大へ前のめりの姿勢があらわになった。
安倍政権は2014年4月、武器や関連技術の輸出を原則禁じてきた「武器輸出三原則」を転換。現行の三原則で、安全保障上の協力関係にある国を対象に救難、輸送、警戒、監視、掃海の非戦闘5分野に限って武器輸出に道を開いた。
だが共同開発・生産を除き、殺傷能力のある装備品は非戦闘分野でも輸出できないと解釈してきた。際限のない輸出拡大に対する、最低限の歯止めといってよい。
ところが岸田政権は、与党協議で従来の解釈を一転させた。現行ルールには明文での禁止規定がないとして「輸出可能」と説明。国民に説明することなく、水面下で事実上の解釈変更を行ったとみられる。与党もそれを追認した格好だ。
輸出拡大へ、現行ルールでも一部の輸出は可能との認識を広げ、慎重論が根強い公明側に拡大容認を迫る狙いだろう。論点整理には、輸出緩和に向けて非戦闘の5類型を撤廃する案と、必要な類型の追加にとどめる案を併記した。
輸出目的に関してはロシアのウクライナ侵攻を踏まえ、三原則に「侵略や武力行使・威嚇を受けている国への支援」との趣旨を書き込むべきだとした。ウクライナ支援が政権内での三原則見直し論に大きく影響したことを物語る。自衛隊しか顧客がいない国内防衛産業の維持を図る目的もあろう。
だが、国内世論が殺傷能力のある武器の輸出を容認しているとは言いがたい。ことし3~4月の世論調査でも輸出ルールについて「殺傷能力のない装備にとどめるべき」とする回答が54%、「全面的に禁止」も23%を占めた。「輸出解禁」の声は20%で最も少なく、世論は極めて慎重な姿勢を示している。国民の武器輸出に対する抵抗感は強い。
殺傷能力のある武器を紛争地に提供すれば、間接的ではあっても戦禍を拡大させることに関与した形になる。「平和主義」の理念とどう整合性を取るのか。
岸田政権は、「専守防衛」の国是を転換しかねない国家安全保障戦略などを国民的な議論を欠いたまま閣議決定した。武器の輸出ルール見直しも、国民の目の届きにくい与党内協議でなし崩し的に進めようとしている。国民の理解なくして国の在り方をゆがめることは許されない。