2023.07.09 08:00
小社会 戦争の民営化
民間でできることは民間で。官から民へ―とは、かつて小泉政権が掲げた「聖域なき構造改革」のフレーズ。郵政公社や道路公団が民営化され、その後、水道事業などを民間に委ねる仕組みも出ている。
しかし今、こんなものまで民間に?と私たちを戸惑わせているのが「民間軍事会社」だろう。ロシアのワグネルはその一つ。
民間軍事会社が世界にはびこり始めたのは1990年ごろ。西アフリカのシエラレオネの内戦で、政権が雇ったエグゼクティブ・アウトカムズ社という企業が戦局を一変させた。映画「ブラッド・ダイヤモンド」にもその一端がのぞく。
雇い兵を集めた管理会社、とイメージすると誤りになる。民間軍事会社はなんでもやる。戦闘、後方支援のほか、情報収集や正規軍への助言、訓練も。なぜそんな能力があるのか不思議だが、これらの会社には軍の元幹部や元特殊部隊兵士らがいるという。
ボスニア、アフガン、イラク…。どこにでも現れる。ブルッキングズ研究所のP・W・シンガー氏の大著(邦題「戦争請負会社」)は米国防総省の関係先も記すが、詳細は不明。彼らは「軍の命令系統からも軍法からも外れ」「法的にも大衆からも承認が得られないであろう行動を実行に移す」。
血と営利にまみれ、不関知を通す政府にも都合がいい「戦争の民営化」。ときに制御不能になる軍事会社が出ることをシンガー氏は2002年に警告していた。