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2023.07.06 08:00

【IAEA報告書】放出の免罪符にはならぬ

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 国際機関の権威を使って科学的な「安全性」をアピールしても、そのまま「安心」につながるとは限らない。そのギャップを埋めるための説明が不足しているのは明らかだ。国内外の反発がそれを示している。
 東京電力福島第1原発にたまる処理水の海洋放出について、国際原子力機関(IAEA)のグロッシ事務局長は、放出計画が「国際的な安全基準に合致する」との包括報告書を政府に提出した。政府は報告書を「お墨付き」として、「夏ごろ」としてきた放出開始の具体的な時期の検討に入る。
 2011年3月に過酷事故を起こした第1原発では、溶け落ちた核燃料(デブリ)を冷やす注水のほか、建屋に流れ込む地下水や雨水が放射性物質に触れ、汚染水が発生し続けている。
 汚染水は多核種除去設備(ALPS)で放射性物質を浄化するが、トリチウムは除去できない。原発敷地内のタンクで保管する処理水は計約133万トンとなり、保管できる量の97%に達した。いつまでも放置できない問題であることは確かだろう。
 政府は21年4月に海洋放出処分を正式に決定。東電は処理水のトリチウム濃度が国の基準の40分の1未満に下がるまで海水で薄め、海底トンネルを通じて沖合約1キロで放出する計画を公表した。放出設備は先月完成し、原子力規制委員会の検査にも合格する見通しだ。
 IAEAの検証は根強い反対の声を踏まえ、政府が依頼していた。報告書によると、計画通りの放出であれば、人や環境への放射線の影響は「無視できるほどごくわずか」と評価。現地に事務所を設置して監視活動を続けるとした。第三者によって計画の透明性を担保するという点では一定の意味を持とう。
 だが、科学的な安全と不安の解消は同義ではない。放出の準備や手続きが着々と進む一方、国内外で不安はむしろ膨らんでいる。
 国内では、新たな風評被害を懸念する漁業関係者らが一貫して放出に反対。海外では中国や韓国の野党が反発し、韓国では塩や海産物の買いだめなど混乱も伝えられる。一般の消費者を含め、理解が広がっているとは言いがたい状況だ。
 不安の払拭には科学的な安全性に加え、信頼醸成が不可欠といえる。政府と東電が15年、地元漁協と「関係者の理解なしにはいかなる(処理水の)処分も行わない」と約束したのもそれを認識してだろう。
 しかし、実際の動きには「スケジュールありき」の印象が拭えない。放出設備の完成、IAEAによる報告書と外堀を埋めることで、理解を迫っているようにもみえる。政府は放出開始を目指す「夏ごろ」を目前にして、今からどう「約束」の理解を得るというのか。そのハードルは極めて高い。
 漁業関係者や地元との約束を袖にすれば、政府や東電への信頼は地に落ちよう。過酷事故を招いた責任を改めて重く受け止め、真摯(しんし)に対応する必要がある。

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