2023.07.05 08:00
【地方鉄道の再編】協議の場づくり丁寧に
ただ、廃線がちらつく以上、自治体側は安易に協議に臨めないのが実情だ。建設的な議論を行うためには、自治体や住民の不安を取りのぞき、信頼が得られるような丁寧な場づくりが欠かせない。
人口減少や新型コロナウイルス禍でローカル線の利用が低迷し、JR各社の経営が悪化する中、4月に地域公共交通の再編関連法が成立。輸送密度(1キロ当たりの1日平均乗客数)が4千人未満の線区を目安に国主導で再構築協議会を設けるとし、千人未満への対応を優先する。
協議会では、鉄道利用を促進して存続するか、バスなどに転換するかを議論し、いずれの結論でも国が財政支援する。「廃線が前提ではない」としている。
地域の公共交通を維持していくために効率的な在り方を探るのは当然だろう。事業者任せでなく国が調整役となって成果を求めるのは、それだけ鉄道網の維持の負担が増しているからにほかなるまい。
だが、鉄道は地域の生活や観光に直結し、歴史や住民の誇りなど目に見えにくい価値もある。地元は廃線を受け入れにくく、議論に対して警戒感を持ってしまいがちだ。
交通はネットワークでもあり、1区間1地域のみで存廃を判断する難しさもある。
現状では、協議に入るには条件が漠然としすぎている感がある。どのような設定ならテーブルに着けるのか、地域の実情に応じた調整や手続きが必要ではないか。地域住民の思いも一様ではあるまい。住民を巻き込むための工夫もいる。
当然、国は協議に臨む上で、社会基盤として鉄道をどう位置づけ、今後どうしていくのか、基本的な考え方を示す必要がある。
本県を含めたJR四国管内は、再構築協議の対象には予土線の若井―北宇和島などが該当するが、一連の経過に納得しにくい面も残る。
JR旅客6社のうち、四国や北海道は国鉄民営化当時から経営構造が厳しく、基金運用益など国の支援で成り立ってきた。一方、東日本、東海、西日本、九州は、赤字ローカル線があっても、ドル箱路線や新幹線、不動産事業などの収益力でカバーし、四国や北海道とは売上高で最大、数十倍の開きがある。
これら大手のビジネスモデルがコロナ禍で崩れたことが再構築協議の導入のきっかけになっている。JR四国や北海道に、経営環境が全く異なる大手の事情を当てはめ、同じ対応を求めるのはいかがなものか。
その意味では、現行のような経営形態にした国鉄分割民営化の功罪を振り返り、改めて全国の鉄道網の在り方に目を向ける必要もあろう。
自治体側はこれまで、鉄道の維持は「国の責任」と訴えてきた。確かにそうだが、もはやそれ一辺倒でもいくまい。地元が果たす責任は主体的に考え、実践していくべきだ。