2023.07.04 08:00
【景況感改善】賃上げの好循環へ着実に
日銀の6月企業短期経済観測調査(短観)は、大企業製造業の最近の景況感を示す業況判断指数(DI)が1年9カ月(7四半期)ぶりに改善した。前回の3月調査から4ポイント上昇しプラス5となった。
自動車は半導体不足の影響が和らぎ、生産が回復基調にある。食料品などはコスト上昇分の価格転嫁が進んだ。収益を圧迫してきた原材料価格の上昇が一服したことも寄与した。一方、業種によっては海外経済の減速で需要が低迷した。
大企業非製造業は5四半期連続で景況感は上向き、新型コロナウイルス感染拡大前の2019年6月以来の高水準となった。新型コロナ感染症の5類移行で経済の正常化が一段と進み、宿泊・飲食サービスは過去最大の上昇幅で、水準も過去最高となった。インバウンド(訪日客)増加による国内旅行の需要拡大も好影響を与えた。
3カ月後の先行きは見方が分かれる。大企業製造業が引き続き上昇を見込み、大企業非製造業はやや下落を想定する。懸念材料となるのは人手不足や人件費の増加だ。全産業で2四半期ぶりに改善した中小企業も同様の傾向にある。人材確保は引き続き重要な課題であり、働き手の不足への対応が迫られている。
企業の景況感に明るさがあるとはいえ、物価高による仕入れ価格の上昇は業績にのしかかる。相次ぐ値上げの一方で、発注元が交渉に応じないとする中小企業もあり、価格転嫁は二極化が指摘される。
全国消費者物価指数は、5月まで21カ月連続で前年同月を上回った。政府の電気・都市ガス代の抑制策による押し下げで伸び率は縮小したが、電気代の抜本的な値上げで6月は再び拡大するとの見方が強い。
一方、物価の変動を加味した実質賃金は4月まで13カ月連続でマイナスとなり、4月は減少幅も大きくなった。今春闘では大幅な賃上げを決める企業が相次ぐなど、現金給与総額が16カ月連続プラスとなっている。しかし、賃金の伸びは物価上昇に追いつかず、家計への影響が長引いている。
家計の所得環境が改善し、消費の増加に伴い企業業績が向上することが望まれる。ただ、先行きは不透明だ。世界銀行は、23年後半の日本は輸入物価の上昇が落ち着くものの、実質賃金の伸びの持続的な弱さが消費を抑制すると予測する。
日銀は金利を極めて低い水準に抑えて景気を下支えする大規模緩和策を維持している。日米の金融政策の違いを意識した円売りドル買いが優勢となり、円安が進行する。日経平均株価はバブル崩壊後の最高値更新が続く。金融政策は見直しと現状維持で意見が分かれるが、市場との対話を怠れば不要な混乱を招く。