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2023.07.03 08:00

【年収の壁】持続性ある処方箋提示を

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 さまざまな業種で人手不足感が強くなっている。現実的な対策が急がれることは確かだ。ただし、それが弥縫(びほう)策にすぎないとなれば、当事者が新たな働き方に踏み切る動機付けとして弱くなりかねない。政府は、持続性のある処方箋を急ぎ提示する必要がある。
 パート労働者らが働く時間を抑制する一因になっている「年収の壁」問題に関し、政府の対策案が明らかになった。企業が、労働者の保険料負担を穴埋めする形で手当を支給する仕組みをつくり、政府が1人当たり最大50万円を企業に助成する。時限的な措置で、根本的な対策は先送りした。
 現在、配偶者がいてパートで働く場合、年収130万円(企業規模によって106万円)を超えると扶養から外れ、社会保険料を自ら負担する必要がある。103万円を超えると多くの企業で配偶者手当がなくなり、150万円超で所得税の配偶者特別控除を満額受けられなくなる。
 これらの「壁」を越えて働く時間を増やすと、手取りが減る逆転現象が生じることがある。保険料負担は将来の年金額に反映されるなど、必ずしも「働き損」ではないものの、手取り額が減ることへの抵抗感は強い。
 このために、保険料負担が生じないよう働く時間を「調整」する人も少なくない。女性の働く意欲や多様な働き方の妨げになっているのは明らかだろう。
 近年は、時給や最低賃金の引き上げに伴って、働く時間を調整する動きが強まっており、さらなる人手不足につながる悪循環も指摘される。経済界から対策を求める声が高まり、岸田文雄首相がことし2月、対応策の検討を表明していた。
 政府の対策案では、労働時間を長くしたり、賃金を上げたりする企業に一定額を補助。既にある雇用保険の助成金を拡充して、年内にも対策を始めるという。ただし、抜本的な見直しは2025年の法案提出を目指す年金制度改革で議論するとして先送りした。
 対策案はいわば、パート従業員らがより長い時間を働きやすいよう優遇する「一時しのぎ」であるだけに、現行制度の問題点は放置された格好だ。
 壁の要因である年収ラインがそのまま残るなか、対策の信頼性に疑問が向けられれば、より長い時間働くことにためらう人も多くなるのではないか。期待通り、人手不足感の解消につながるかどうかは不透明と言わざるを得ない。
 また、これまで自ら社会保険料を納めてきた人との不公平感も強まる。納税や社会保険の負担は一人一人の働き方に基づく問題で、人手不足対策とは切り分けて考える必要がある。どんな働き方を選択しても公平であるべきだ。
 政府は長年、年収の壁問題が指摘されながら、抜本的な制度改革を見送ってきた。家族観や労働意識も多様化しており、社会の変化、実態に合った見直しが求められる。

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