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2023.06.29 05:00

【認知症基本法】重み増す「共生」の理念

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 目指すのは、認知症になっても安心して暮らせる共生社会だ。取り組みを具体化させていきたい。
 認知症基本法が、超党派の議員立法により先の国会で成立した。
 国内の認知症の人は2025年に約700万人に達するとみられ、65歳以上の5人に1人に当たる。誰もが当事者や介護する立場になる可能性がある。そのような「国民的」とも言える疾病への向き合い方が、幅広い意見を踏まえた上で集約された。
 理念や考え方を掲げる基本法であり、たちまち大きな変化につながるわけではないが、予算や施策が時々の情勢に左右されがちな中、取り組みを推進し続ける根拠になる。認知症に対する国民や自治体のスタンスも一貫する。その意味で、意義のある一歩になったのは間違いない。
 基本法は「認知症の人が尊厳を保持し、希望を持って暮らすことができるよう施策を総合的に推進する」ことを目的に掲げた。首相を本部長に「認知症施策推進本部」を設け、基本計画を策定。さらに、自治体の計画策定も努力義務とし、認知症の人の社会参加や国民の理解を促す。相談体制も整える。
 認知症基本法を巡っては、与党が19年に法案を提出し、廃案になった経過がある。この時は「予防」という切り口が強調されたが、今回は、認知症の人の個性や人権を尊重し、支え合う「共生」に重点を置いたことが特徴だ。
 認知症は根本的な予防策が確立されておらず、また「予防」を強く掲げると、認知症になった人への誤解や偏見にもつながりかねない。実際は認知症になってもさまざまなことができ、当事者側も「理解を深めてほしい」と求めていた。法案作りには当事者や家族もヒアリングなどで加わり、当事者団体は「声が十分に反映された」と評価する。
 今後の計画作りでも当事者らの参加が定められた。認知症の原因はさまざまで、症状も一様ではないだけに、当事者や家族の声が実効性のある取り組みには欠かせまい。
 基本法ができたことで認知症対策のレベルが一段上がったのは事実だろう。岸田文雄首相も「国を挙げて取り組む」と国家プロジェクトに位置付けた。看板倒れにならないよう指導力を発揮してもらいたい。
 高齢化が先行する高知県では認知症はより切実な課題だ。推計では、県内の認知症の人の数は、ピーク時の35年には約4万9千人になると予想され、これは県民の十数人に1人という割合である。
 県は21年度に認知症施策推進計画を策定し、高齢者福祉計画などと一体的に運用している。認知症サポーター養成などの普及啓発事業のほか、早期発見・診断のための医療体制の整備、地域での支援態勢の拡充などに努めている。
 入所施設が限られている以上、人数が増えれば在宅で対応するケースが増える。基本法が掲げる通り、共生の社会づくりがより求められることになる。法の趣旨も踏まえながら継続的に備えていきたい。

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