2023.06.25 08:00
小社会 国家機密
ベトナム戦争のさなか、この戦争を止めようと、刑務所行きを覚悟して国家機密を暴露した人がいた。先週訃報が流れたダニエル・エルズバーグさん、享年92。
1969年、彼が職場から持ち出したのは歴代米政権が戦争の実態を隠し、うそを塗り重ねていたことを示す47冊7千ページの資料。ベトナム反戦運動に大きな一石を投じ、その勇気をたたえる人は今も多い。
彼は計115年の刑で訴追されたが、数奇な展開で服役を免れた。新聞報道に激怒したニクソン政権は、彼の醜聞を探すための一味を編成。過去にかかった精神科医の診察室への侵入や盗聴などを重ねた。その一味がほどなく別の目的で起こしたのが、あのウォーターゲート事件。捜査過程でエルズバーグさんへの違法行為が発覚、彼の裁判は打ち切られた。
晩年、エルズバーグさんは日本の特定秘密保護法に触れて語った。「いずれの政府においても機密制度の第一義的な目的は(中略)公共機関の誤った行動、虚偽、犯罪、誤解、正しくない予測、愚かしいふるまいを国民の目から隠蔽(いんぺい)すること」「真実の告白や内部告発をおさえこむことです」(岩波ブックレット「国家機密と良心」)
特定秘密法違反で訴追された人は一人もない。