2023.06.21 08:00
小社会 ヤマモモの季節
子どもの頃は採りに行ったり、もらったりしてよく食べた。独特の食感や甘酸っぱさというのもあり、郷愁を誘う果物でもある。物理学者の寺田寅彦は1932年の随筆で、ヤマモモをイタドリや寒竹とともに「郷土的味覚」と紹介した。
宮尾登美子さんも、ふるさとのヤマモモに思い入れがある人だった。82年刊の県内を舞台にしたルポルタージュ風小説に「揚梅(やまもも)の熟れる頃」がある。あとがきで「この揚梅、保存が大へんむずかしくて東京への空輸でも駄目なのです」と解説している。
生の実は時季が限られる上に、日持ちしない。東京では手に入りにくいとする宮尾さんの説明はふるさと自慢にも、悔しさにも聞こえる。いまでも東京への生食用の出荷は料亭向けなどが多いようだ。街の小売店ではめったに見かけない。
ヤマモモの木は実は都心にもある。日比谷では街路樹として並ぶ。場所柄や品種の違いもあるのだろう。拾う人はおらず、この時季は落ちた実が道を赤く染める。
夏至を迎え、蒸し暑い日が続いている。ヤマモモの果汁にはブドウ糖やクエン酸が含まれ、疲労回復にもよいのだとか。高知ではいまも新鮮で味のよい実が気軽に食べられる。地域の恵みをおいしくいただき、来たる夏本番に備えたい。