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2023.06.22 08:30

故郷に帰った4万5千冊の蔵書「シン・マキノ伝」番外編② 田中純子(牧野記念庭園学芸員)

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牧野富太郎、書庫にて(個人蔵)

牧野富太郎、書庫にて(個人蔵)

 牧野富太郎の蔵書の数は4万5千冊と言われる。94年の生涯においてこれだけの数の書籍を収集するのは至難の業ではないか、そのためのお金の工面はさぞかし大変なことであったろうなどと心配してしまう。牧野の没後、ご家族の厚意により、牧野が大切にしてきた蔵書は、博士が郷里に帰りたいと願っていた、その望郷の念を込めて高知県に寄贈されることになった。それらは、高知県立牧野植物園に収められ牧野文庫となった。数の多さに加えて、植物学に限らない多様なジャンルの書籍を整理して研究などに活用できる状態にする作業は、かなりの時間と労力を要し困難を極めたことと推察される。そこには、博士の旧蔵書を丹念に調査できる喜びもあったはずである。牧野の蔵書の特色については、高知県立牧野植物園発行の「牧野富太郎蔵書の世界 牧野文庫貴重書解題」(2002年)に詳しい。また、洋書・和書・漢籍などの目録も刊行された。

 ここでは上記の出版物において言及されていないことを述べてみたい。というのは、牧野の蔵書のほんの一部が他の施設で見られることに気が付いたからである。蔵書には蔵書印が押されるので、それらから元の所有者をたどることができる。また、一人の所有者であっても、使用される印の形状や印文にはさまざまなものがある。牧野の蔵書印については、上記の文献に詳しい論考がある。それによれば、初期の蔵書には「牧野」という印が押されたと説明される。

 さて、武田科学振興財団杏雨書屋(日本・中国の本草書および医書を中心に所蔵する図書資料館)に「信筆鳩識」という写本(全11冊)がある。この写本には富山藩主・前田利保(1800~1859年、5回目に登場)の蔵書印「万香文庫」が押され、本文中には利保の号である「万香亭」・「弁物舎」「益斎」・「自知春館」などの署名や印が見られる。各冊の内容は、弘化4(1847)年と翌年に行なわれた江戸近郊での採薬行の記録、本草に関する覚え書、富山に産する植物の記録であって、植物の図も見られる。「信筆鳩識」は利保が手元に置いて、入手した情報をその都度書き入れていた手択本とされる。利保は自然物に強い興味を持ち、「赭鞭(しゃべん)会」という同好の士が集まった研究会の中心的なメンバーであった。

 この写本で重要な発見があった。…

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