2024年 05月03日(金)

現在
6時間後

こんにちはゲスト様

2023.06.10 08:00

【改正入管法成立】人権擁護が後退しないか

SHARE

 保護されるべき外国人が母国に送り返され、迫害されるケースが増えるのではないか。国会の議論を経てなお、疑問を禁じ得ない。人権擁護という国際社会での責務が後退する懸念が膨らむ。
 難民申請中の強制送還を可能にする改正入管難民法が参院本会議で可決、成立した。人命や人権に関わるテーマでありながら、議論が尽くされたとは言いがたい。
 現行法は、難民認定申請中は強制送還されないと規定する。政府は、不法滞在などで強制退去を命じられても送還を拒む外国人が増え、難民申請を繰り返して退去を免れようとするケースを問題視してきた。
 入管施設の長期収容解消に軸足を置く改正案は2021年の通常国会にも提出されたが、名古屋出入国在留管理局でスリランカ人女性が死亡した問題が発生。与野党が対立し、廃案になった経緯がある。
 今回もその骨格を維持した改正だった。難民申請中の強制送還停止を原則2回に制限。3回目の申請以降は「難民認定すべき相当の理由」を示さなければ送還する。
 しかし、難民の認定率が1%程度という日本の現状では、「迫害の恐れがある人を送還してしまう」恐れがつきまとう。実際に、複数回目の申請や裁判で難民認定された事例も多いからだ。
 この問題点は支援団体なども指摘したが、国会審議でその不安は解消されなかった。一部の野党は、第三者機関による審査制度などを求めたが、与野党の交渉は決裂した。
 諸外国に比べて極端に認定数が少ない要因として、非正規滞在者を「追い返す」出入国在留管理庁が難民の「受け入れ」も担う構造が指摘されてきた。その解消を図る機会になり得たが、難民審査の透明性向上にはつながらなかった。
 改正法は、支援者ら監理人の下で社会での生活を認める「監理措置」や、紛争地域の人らに「補完的保護対象者」として在留を認める新制度を盛り込んだ。一歩前進したようにも見えるが、身体の自由を制約する「原則収容主義」の転換や、保護の対象拡大につながるかは不透明さを伴う。いずれも運用は入管の裁量に委ねられ、恣意(しい)的に判断される余地は残る。
 今回の改正点をみれば、国内外から「難民鎖国」と批判される現状への危機感、外国人との共生社会に向けた視点が政府には欠けていたのではないか。強制送還の強化よりも、国際基準に沿った人権擁護の実現が優先される課題だったことは明らかだ。
 21年の法案同様、今回も国連の特別報告者らに、「国際人権基準に達していない」と徹底的な再検討を求められていた。法改正の機会に、人権保護の水準を向上させられない国会の在り方には国内外からより厳しい目が向けられよう。
 日本社会が難民とどう向き合い、国際社会に貢献するか。今回の改正にとどまることなく議論を続け、抜本的な見直しを図る必要がある。

高知のニュース 社説

注目の記事

アクセスランキング

  • 24時間

  • 1週間

  • 1ヶ月