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2023.05.28 08:00

【露の戦術核移転】NPTの趣旨に反する

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 互いに核兵器を突きつけ合った冷戦時代へ、時計の針を巻き戻すつもりなのか。北大西洋条約機構(NATO)側との軍拡をエスカレートさせ、自国民を含めた国際社会を脅威にさらす蛮行といえる。核の移転・拡散は決して許されない。
 ロシアと同盟国ベラルーシの国防相が会談し、ベラルーシ領内にロシアの戦術核兵器を配備するための合意文書に署名した。詳細は不明ながら、ベラルーシのルカシェンコ大統領は自国の準備を整え、「移転は始まった」とする。
 冷戦期の欧州では、米国とソ連が同盟国を巻き込む形で激しく対立。ソ連が1991年に崩壊した後、独立したベラルーシとウクライナ、カザフスタンに残された旧ソ連の核兵器を、ロシアが90年代半ばまでに引き取っていた。ベラルーシへの核再配備は、それ以来となる。約30年に及んだ核軍縮の流れを逆行させた格好だ。
 ウクライナ侵攻で核兵器の使用をちらつかせてきたロシアのプーチン大統領は3月、ウクライナを軍事支援する欧米への対抗策として、隣国への戦術核配備を表明した。
 戦術核は譲渡ではなく、運用は引き続きロシア側が担うとして、核拡散防止条約(NPT)などの国際規範に違反しないと強調した。自己弁護のゆがんだ論理は当然、受け入れられるものではない。
 ベラルーシは既に、ロシアから核弾頭の使用が可能な弾道ミサイルシステム「イスカンデルM」を供与され、空軍機の一部も核兵器を搭載できる仕様に改造済みという。核兵器の保管施設も7月までに完成するとみられる。
 こうした両国の実態が、NPTの趣旨に反しているのは明らかだ。NPTは明確に、核兵器やその管理をいかなる国に対しても移譲、受領することを禁じている。
 核兵器が実際に移転されれば、NATO側も対抗措置を検討せざるを得なくなるだろう。米国が戦術核を配備する欧州で、核紛争につながる懸念が膨らむ。ここに抑止力論のジレンマが浮かび上がる。
 先の先進7カ国首脳会議(G7広島サミット)は「核軍縮に関する広島ビジョン」を発表。安全が損なわれない形で、核兵器のない世界という目標に向けたG7の関与を確認した。一方で、防衛目的のための核抑止力を正当化し、被爆者らからは非難の声が相次いだ。
 核による抑止力は、直接的な被害を短期的に防ぐための理論にほかならないだろう。長期的にはむしろ、核兵器の脅威を増幅させかねない。ロシアとベラルーシ、NATO側が互いに抑止力の強化を図ることで緊張が高まる現状がそれを示している。抑止力の限界をあらためて認識する必要がある。 
 ロシアのウクライナ侵攻で、国際社会の分断と対立が深まるなか、現実的に核兵器なき世界への道筋を探るのは容易ではない。核軍縮の行動につなげるためにも、ウクライナ和平を急がなければならない。

高知のニュース 社説

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