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2023.05.19 08:00

小社会 理想と現実

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 病床の宮沢賢治が「雨ニモマケズ」の詩を手帳につづったのは亡くなる2年前、1931年の秋だった。手帳は没後、愛用のトランクから見つかる。ゆえにこの有名な詩は発表前提の作品ではなく、賢治の内心の願い、祈りだと評される。

 晩年の賢治は、理想と現実のギャップに苦しんだ。人間関係のしがらみもあって教職を辞め、農民たちに農業技術や芸術論を教える私塾も挫折。何より病が体をむしばんでいた。

 ただ、傑作「銀河鉄道の夜」の執筆は死の間際まで続いている。研究者の日大教授、山下聖美さんはNHK「100分de名著」のテキストで、「むしろ現実の厳しさの中で、それでも自分の理想の世界をつくるにはどうすればよいかと葛藤を続けていた」。

 思えば、核兵器廃絶の取り組みにも「理想と現実」がついて回る。理想は「核なき世界」だ。ところが世界の核軍縮を巡る現実は、ロシアのウクライナ侵攻と「核威嚇」で大きく後退している。中国や北朝鮮の核軍拡も気になる。

 日本も矛盾を抱える。米国の核兵器で日本への攻撃を思いとどまらせる「核の傘」。唯一の戦争被爆国として核廃絶を言うべき立場ながら、核兵器禁止条約には背を向けたままだ。政府の姿勢が被爆者らの落胆を誘って久しい。

 理想に現実を近づける努力と葛藤は、賢治のみのものではあるまい。被爆地の願い、祈りをどう広げるか。G7広島サミットがきょう開幕する。

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