2023.05.17 08:00
【不適切保育】多忙な職場の改善を
こども家庭庁が「不適切な保育」について初めての実態調査を行ったところ、全国で昨年4~12月に計914件確認された。「虐待」と判断された事例も90件あった。
調査は、静岡県で昨年発覚した保育士による暴行事件を受けて行われた。ただ、浮き彫りになったのは、実態というよりも「実態把握の難しさ」だったと言える。
調査では、「脅迫的な言葉」「罰や乱暴な関わり」などの類型を示し、不適切保育の情報が寄せられたケースを市町村に尋ねたが、施設や自治体ごとに「不適切」の捉え方が異なっていた。
また、不適切保育に関する相談窓口がある市町村は4割強にとどまるなど保育所からの通報体制も一様ではなく、確認された件数は自治体ごとに大きなばらつきがあった。このため今回の確認数も「氷山の一角」とする意見もある。
こうした事態にこども家庭庁は、「不適切」を定義し直すなどしたガイドラインを作成。自治体への通報を義務づける法改正も検討する、とした。設計の甘い調査だったが、実態把握のシステム作りの契機になったのであれば今後につながる。
調査が精度を欠くため914件の多寡は評価しにくいが、不適切保育は静岡県以外でも相次いで判明しており、全国的な傾向を物語っているのではないか。子どもが安心して過ごせる環境づくりへ、対策の見直しを急がなければならない。
こども家庭庁は新たなガイドラインに、不適切事例があった場合は保育所は自治体と情報共有し、自治体が改善勧告するなどの対応を盛り込んだ。ガイドライン以外でも職場の業務効率化などを打ち出した。
ただ、不適切事例が起こる背景として、職場の多忙さや人手不足により保育士が余裕を失っているという構造的な問題が指摘される。通園バスの園児置き去り案件も同様だろう。この問題への手当てなしに抜本改善は見通せまい。
認可保育所では、国の配置基準によって保育士1人が見る子どもの人数が年齢ごとに決まっているが、日本の基準は欧米に比べて手薄だ。特に4~5歳児は70年以上変わっていない。待機児童の解消のための施設整備を先行させ、保育の「質」の確保が後手に回った経緯がある。
こうした中、政府は3月に決定した「次元の異なる少子化対策」の試案で、配置基準の改善を掲げた。
しかし今月になって、保育士を増員した施設に支払う運営費を加算するとの対応に見直した。基準自体を変えれば、保育士の人手不足に拍車がかかるためだと説明するが、姿勢が後退したと言わざるを得ない。
配置基準とセットで、保育士の処遇改善も掲げているが、こちらは財源が不安視される。「異次元」の看板が問われている。