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2023.06.12 10:00

山間集落「神谷」の魅力伝えたい 東京や大阪で展覧会を計画 いの町の「地域研究ユニット・タテマエ」―EINEE高知

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山間集落の生活文化や魅力を発信する展覧会の開催を目指す「タテマエ」のメンバー(いの町成山)

山間集落の生活文化や魅力を発信する展覧会の開催を目指す「タテマエ」のメンバー(いの町成山)

 美しい石積みの棚田が広がる高知県いの町の神谷(こうのたに)北部5集落。ここをフィールドにする「地域研究ユニット・タテマエ」が、山間集落の生活文化や魅力を発信する展覧会を東京、大阪、高知で開催することを計画しています。タテマエのメンバーは「神谷は限界集落ではあるけど、その先に何が見えるのかっていうのを社会に問いかける展覧会にしたい」と意気込んでいます。6月末までクラウドファンディングで支援を募っています。

■物言わぬ限界集落

 神谷北部5集落は、「仁淀ブルー」で知られる仁淀川沿いの国道194号から山に入り、車1台がやっと通れるくねくね道を進んだ先にあります。5集落は小野(この)、成山本村、北成山、中追西、中追東で構成されていて、人口は180人ほど。住んでいる人のほとんどが高齢者です。

 神谷北部5集落をフィールドに活動するタテマエは高知県内外の研究者や学生でつくる団体で、2018年から活動しています。きっかけは現在、近畿大学総合社会学部で講師を務める農村計画や地域デザインが専門の野田満さん(37)が7年ほど前、島根県の中山間地域研究センターで、元いの町職員の伊藤豊隆さん(70)と出会ったことでした。

 
集落には美しい石積みの風景が残っています(いの町成山)

集落には美しい石積みの風景が残っています(いの町成山)

野田さんは伊藤さんの誘いで神谷を訪れ、 「石積みの風景に心を奪われた」と言います。さらに「神谷は外の人間が一緒に入って地域づくりをした経験などがなく、(普通なら)研究者として出会わなかった場所。いわば"物言わぬ限界集落"。何もなくそのまま人口がゼロになっていくのを待つばかりっていうような状況だと感じた」と、神谷に入って活動することを決めました。

■昔の記憶聞き取り、食事で交流の場…活動多彩に

 野田さんや伊藤さんは高知大学などで学生を募り、活動をスタートさせました。タテマエという名前は建築用語で柱や梁(はり)などの基本構造を指す「建前」からきており、表層ではない骨格、本質的なところを求めていきたいという願いが込められています。

「防災カタログ」作りに取り組む学生と住民(タテマエ提供)

「防災カタログ」作りに取り組む学生と住民(タテマエ提供)

 タテマエは神谷北部5集落の連合自治会と連携協定を結び、まずは集落に住む59人から昔遊びや食、地域行事などについてオーラルヒストリー(口述記録)を聞き取るところから始めました。聞き取りを通じて地域について学びを深め、住民との関係性もつくり、その後は多彩な活動を展開。住民の外出状況や地区外に住んでいる家族の帰省・来訪情報など生活環境のリサーチ、学生と地域住民が一緒に食事を楽しむ「たてのま」の開催、本当に必要な防災用品をまとめた「防災カタログ」作りなどに住民と一緒に取り組んできました。

タテマエで制作した「神谷がたり」や活動を報告する冊子(いの町成山)

タテマエが制作した「神谷がたり」や活動を報告する冊子(いの町成山)

 21年5月にはそれまでの住民たちへの聞き取り調査などを基に、「ツガニ汁」や「ひがしやま」といった神谷の伝統食や、昔遊びの道具の作り方などをまとめた全145ページで英訳付きの本「神谷がたり」を制作し、いの町役場や町立図書館に寄付しました。

住民が撮影した写真の展示(タテマエ提供)

住民が撮影した写真の展示(タテマエ提供)

 新型コロナウイルス感染拡大の影響で思うように活動できない日々もありましたが、22年12月には神谷で生産された野菜やみそ、黒ニンニクなどを販売し、地元住民による草履作りの実演もある「成山元気にんにく祭り」の開催をお手伝い。また今年4月からは住民にインスタントカメラ「写ルンです」で撮影してもらった写真の展覧会「こないだ景」を地域の集会施設で開催するなど、徐々に活動を再開しています。

■草の根の取り組み知って

 展覧会の開催は、活動6年目に入ったタテマエの一つの節目として企画しました。研究者である野田さんは「僕は講義をしたり論文を書いたりするんですが、それだけでは届かない層がいる。論文は恐らく研究者しか読まないし、講義は学費を払ってる学生しか聴けない。研究者や学生でない層に届ける方法を考えたときに、展覧会だと思った」と語ります。

 
タテマエの活動について紹介するパネル(いの町成山)

タテマエの活動について紹介するパネル(いの町成山)

展覧会では、神谷の美しい風景や住民が写ルンですで撮った写真を並べるほか、「神谷がたり」にも掲載した料理や昔遊びの道具作りなど古くから伝わる"ワザ"、聞き取ったオーラルヒストリー、生活実態のデータをパネルで紹介します。また、東京や大阪で高知の過疎高齢化の現状を伝えるため、そもそも限界集落とは何かについても人口推移のデータなどとともに解説します。

 展覧会は来春開催する予定。野田さんは「大阪や東京にいる高知出身の人や、逆に都会生まれ都会育ちで田舎のいの字も知らないような人にも見てほしい。教科書に載るような地域づくりだけではなく、こういう草の根的な、地道な取り組みがあることを知ってほしい」。

 大学1年のときからタテマエで活動をしている、高知大大学院2年の武沢里穂さん(23)は「私と同じように地域のことを勉強している学生にも来てほしい。同じようなことをいろんな県でやっている人たちがいると思うので、ほかの学生が自分たちの活動にどういうふうな意見を持つのか知りたいし、悩みとかも共有できる場になれば」と語り、「いろんな人たちが私たちが掲げてる理念に共感してほしい」と呼び掛けています。

 クラウドファンディングは6月末まで。目標金額は300万円。詳しくはこちら

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