2023.05.09 08:00
【日韓首脳会談】未来志向の関係へ高めよ
岸田文雄首相は韓国を訪れ、尹錫悦(ユンソンニョル)大統領と会談した。3月の尹氏来日から間もない訪韓は、信頼関係を構築する機会を両国が逃したくないからだろう。関係の正常化へとつなげていきたい。
懸案である元徴用工問題を巡り、尹政権は日本企業の賠償支払いを韓国の財団が肩代わりする解決策に着手した。こうした姿勢を日本側は好意的に受け止め、関係改善へと動き始めた。尹氏は会見で、肩代わりが唯一の解決策だとして忠実に履行する考えを表明した。
尹氏はまた、「歴史問題が完全に整理できなければ未来の協力へ一歩も進めないとの認識から脱却しなければならない」と、未来志向で取り組む必要性を訴えた。関係改善へ向けた強い意欲がうかがえる。
韓国内では元徴用工問題の解決策に対する日本の呼応措置がないとして、尹政権に批判が向けられてきた。支持率は低迷し、その理由の上位に対日外交が挙げられる。
今回、首相は歴史認識に関し「大変苦しい、悲しい思いをされたことに心が痛む思いだ」と述べた。植民地支配への反省とおわびを明記した1998年の日韓共同宣言に触れて歴代内閣を継承する立場としつつ、この「私自身の思い」を重ねた。日本国内からの反発を回避しつつ、尹氏の解決へ向けた意思に応じようとする発言との見方も出ている。首脳間の信頼醸成につながるのであれば望ましい。
ただ、韓国内の反応は分かれる。首相の「心が痛む」発言を前向きとの受け止めがある一方、不十分とする見方も強いようだ。対日関係は繊細で政権への影響度合いは大きい。対立を深めないように丁寧な対応を心がけることが求められる。
米政権にとっても日韓関係の改善は重要となっている。核・ミサイル開発を進める北朝鮮や、覇権主義的な動きを強める中国と向き合うためには日米韓の連携の強化が欠かせないと判断しているためだ。対日関係の改善に動く尹氏を先の米韓首脳会談で厚遇した背景とされる。
韓国では安全保障分野の日韓連携に、歴史問題も絡んで否定的な見方もある。日本側も韓国の姿勢が急変することへの警戒感が根強い。連携の在り方は議論を深めなければならないが、抑止力を高める方策が求められているのは間違いない。
先進7カ国首脳会議(G7広島サミット)の拡大会合に、首相は尹氏を招いた。首脳対話の促進で関係を深めることが重要となる。
首脳会談では、東京電力福島第1原発の処理水海洋放出計画に関し、韓国の専門家による視察団の現地派遣を申し合わせた。そもそも、日本国内でも計画への理解が進んでいるとは言いがたい。国民への説明を重ねることが基本だ。