2023.05.07 08:39
お茶香る隠れ里 入河内(安芸市)―土佐鳥瞰紀行(90)
安芸市の伊尾木川沿いを上流に向けて車で進むと、ふっと集落が開けた。隠れ里のような場所の名は入河内(にゅうがうち)。川から立ち上る朝霧に覆われて、品質の良い茶葉が育つ場所としても知られている。
林業が盛んだった1950年代には約2800人が暮らす東川地区の中心地としてにぎわった。林業が下火となって茶葉生産が本格化し、最盛期の70年代には15ヘクタールの茶畑が広がっていた。
東川茶業組合の茶工場から、ガチャン、ガチャンと茶葉をもむリズミカルな機械音が響き、ふんわり甘い香りが漂ってくる。
工場長の有沢光喜さんが「いい香りでしょ」とにっこり。「最盛期には3組2交代制で、24時間動かしてましたよ」と懐かしむ。
今や茶畑は1ヘクタールほど。多くが、より収益の高いユズ畑に変わった。暮らす人も60人ほどに減り「高齢化で作る量も少のうなりました」と有沢さん。それでも「体の動く限りお茶を作り続けたいねえ」と、問わず語りに話した。
出来たての新茶をいただいた。一口含むと、若葉の香りと優しい甘みが口いっぱいに広がった。(佐藤邦昭)