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2023.05.03 08:00

【憲法記念日】基本を見つめ直す時だ

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 日本国憲法はきょう3日の憲法記念日で、施行から76年を迎えた。
 国民主権、基本的人権の尊重、平和主義―。憲法を巡っては近年、この3原則に対し、為政者側が権限や裁量を広げようとする動きが繰り返されている。権力の行き過ぎに歯止めをかけ、国民の権利を守る立憲主義の軽視と言ってもよいだろう。
 昨年末には、他国の基地などへの反撃能力(敵基地攻撃能力)の保有を盛り込んだ安全保障関連3文書の改定があった。岸田政権は、憲法に基づく「専守防衛」の理念がゆらぐ恐れがありながら、国会論戦や国民的論議を欠いたまま決定した。
 東アジアの軍事的な緊張の高まりで、防衛力強化の必要性は増しているかもしれない。しかし平和主義を掲げる以上は、発動基準を明確にするなど、反撃能力が暴走しない措置も一体的に求められた。
 岸田文雄首相はそれらを曖昧にし、相手国から先制攻撃とみなされるリスクにも言及しなかった。説明不足のまま「専守防衛は堅持する」と訴えても説得力はない。
 安保法制の時と重なる。歴代政権が「違憲」としてきた集団的自衛権の行使を、安倍政権は解釈変更で可能にした。本来なら、戦争に巻き込まれる懸念を国民に説明し、改憲の国民投票を仰ぐべき案件を、採決を強行して法案を成立させた。
 この安保法制の対応が、あしき前例になった感がある。政権側は「他国の脅威」「現実対応」と強調するが、議論や手続きを省いてよいはずがない。このような対応が重なれば憲法は形骸化し、トップの意向で何でもできる国に向かってしまう。
 政権の都合を優先した憲法軽視の風潮は、これにとどまらない。
 日本学術会議会員の人選に介入しようとした動きは、「学問の自由」を制約しかねない。放送法の「政治的公平」の解釈変更を巡る総務省文書の一件は「表現の自由」に関わる問題である。立憲主義の基本を見つめ直す時ではないか。
 もちろん、憲法は「不磨の大典」ではない。安全保障面のみならず、同性婚やデジタル社会の人権といった論点も多様化しており、時代の変化に応じていくべきだ。だが、改憲自体が目的になっていたり、立憲主義の後退につながりかねないケースは慎重になる必要がある。
 岸田首相は、自民党総裁任期である2024年9月までの憲法改正に意欲を示す。「改憲勢力」は現在、国会発議に必要な総議員の3分の2を上回る。衆院憲法審査会の開催頻度は上がり、改憲論議は活発化している状況だと言ってよい。
 主張は各党で異なるが、自民など改憲勢力は、緊急事態対応で意見集約を図ろうとしているようだ。だが現行法制で対応可能とする意見も少なくなく、歴史を振り返れば、緊急時に権力が力を強め、民衆の自由や権利が奪われたこともある。
 新型コロナウイルス禍を含めて、「非常」「危機」を口実にした改憲の実績作りにしていないか。しっかり見極めていかなくてはならない。

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