2023.05.03 08:00
小社会 裏表の言葉
学生食堂で偶然、吉永さんがコーヒーとトーストを持って正面に座った。二きれ目は少し口をつけただけで席を立った。タモリさんは煩悶(はんもん)する。「持って帰ろうか」「だけどオレは硬派の人間である」。やっぱり欲しいと思った瞬間、店員が片付けた(戸部田誠著「タモリ学」)。
分野は違えど、戦後の芸能界の先頭に立つ二人。タモリさんがことしを「新しい戦前になるんじゃないですかね」とした発言は、年明けの本欄でも触れた。振り返れば、吉永さんも元日の本紙で似た発言をしている。
作家、半藤一利さんの言葉を引いて「ずっと戦後であってほしい」。まともな国会論議もなく政権が決めた防衛費の増額、敵基地攻撃能力の保有。同世代の二人が図らずも、裏表のような言葉で不穏な時代を危惧したことになる。
吉永さんは「怖いのは…みんなで考えるんじゃなく、どんどん決めていこうとした動き」とも。思えば、集団的自衛権の行使を可能にしたあたりが源流か。近年は「政府も昔はそう考えていた」はずの憲法、法律の解釈を変更する権力の強引さも目立つ。
権力を縛る立憲主義の本旨とは。国民的合意とは。あらためて考えてみる。戦後の憲法はきょうで施行76年。